PC-6000シリーズ

NEC PC-6000シリーズ：家庭用パソコン市場を彩った8ビットマシン

NECの子会社、新日本電気（後のNECホームエレクトロニクス）が発売したPC-6000シリーズは、8ビットパーソナルコンピュータとして1980年代前半のパソコンブームを彩った機種群です。PC-6001、PC-6001mkII、PC-6001mkII SRの3機種からなり、シリーズを通してキーボード一体型という特徴的なデザインを採用していました。姉妹機種であるPC-6600シリーズとは、基本機能はほぼ同一で、PC-6600シリーズにはフロッピーディスクドライブが内蔵されている点が異なります。

PC-6000シリーズの立ち位置

PC-6000シリーズは、NECのテレビ事業部が開発した機種であり、同社のマイクロコンピュータ事業部が開発したPC-8001シリーズとは開発経緯や設計思想が大きく異なっていました。PC-6000シリーズは、テレビをディスプレイとして使用し、ROMカートリッジからの直接起動を可能にするなど、ゲーム機的な側面も持ち合わせていました。型番からはPC-8001シリーズの下位機種のように見えるかもしれませんが、実際は全く異なる製品です。

販売ルートも、家電量販店を中心とした新日本電気の販売網と、NECの特約店ルートの両方を利用することで、幅広い層へのアプローチを図りました。PC-8001が業務用途を重視した設計だったのに対し、PC-6000シリーズは教育と娯楽性を強く意識した設計になっており、機能面では簡素化されている部分もありましたが、音源に関しては同時代の機種と比較して充実した構成になっていました。

当時、多くのパソコンが単音または固定されたビープ音しか出せない中、PC-6001は標準でAY-3-8910（PSG）音源を搭載し、BASICのMML（Music Macro Language）によって容易に音楽演奏ができました。後継機種ではYM2203音源を搭載することで、矩形波以外の波形によるより豊かな音響表現も可能になりました。さらに、オプションまたは標準機能としてμPD7752による音声合成機能も提供され、後継機種では音程の変化もできるよう改良が加えられました。

PC-6000シリーズは、商品に欠陥があったわけではなく、むしろ成功しすぎたがゆえに終息を迎えることとなりました。NECは、将来的なPC-8000シリーズ/8800シリーズとの競合を回避するため、各シリーズの位置づけを再編。PC-8800シリーズはホビー用途強化、PC-9800シリーズはビジネス用途に特化させる一方、PC-6000シリーズは生産終了という決断をしました。開発陣にとっては不本意な終息だったと言われています。

PC-6001

1981年11月10日発売。メーカー希望小売価格は8万9800円でした。アイボリーとブラウンを基調とした筐体にオレンジ色のキーがアクセントとなったデザインで、家庭用としては画期的なカラーハイレゾグラフィック、ひらがな表示、三重和音のPSG音源、ジョイスティックインターフェース標準搭載などが特徴でした。「パピコン」の愛称で親しまれました。

付属のマニュアルは簡素でしたが、別売りの教則本が充実しており、初心者にも扱いやすかったです。キーボードはキーが独立したアイソレーションキーボードのような形状で、アプリケーションごとにオーバーレイシートを使用する設計となっていました。輸出モデルのPC-6001Aは一般的なタイプライター風のキーボードを採用していました。

PC-6001は、カートリッジスロット、RAM拡張、フロッピーディスクインターフェースなどの拡張ユニット、拡張BASIC、フロッピーディスクユニット、音声合成ユニットなどを接続可能でした。また、12インチのモノクロディスプレイやカラーディスプレイにも対応していました。ジョイスティックインターフェースはAtari 2600のものを拡張したものでした。

テレビCMでは「NECのパピコン」を前面に出し、家族で楽しめるコンピュータとしてアピールしました。すがやみつる氏の漫画『こんにちはマイコン』でも取り上げられました。海外でも北アメリカ（NEC TREK）やイラクで販売されました。

PC-6001mkII

1983年7月1日発売。メーカー希望小売価格は8万4800円でした。PC-6001の後継機種で、キーボードが一般的なタイプライター風になり、デザインも洗練されました。メタリックシルバーとアイボリーホワイトの2色展開でした。

グラフィック機能が大幅に強化され、RGBディスプレイ接続による鮮明な表示が可能となりました。最大15色表示に対応し、専用ディスプレイ使用時は最大15色表示、PC-8000/8800シリーズ用の一般的なディスプレイでは最大8色表示でした。RGBディスプレイ接続により高精度の表示が可能になった一方、色信号のずれを利用した着色処理をしていたソフトウェアは白黒表示になるという問題もありました。

PC-6001mkIIでは、絵文字キャラクタセットや32KB漢字ROMが追加され、1024種類の漢字をグラフィックで表示できるようになりました。オプションだった音声合成機能が標準搭載され、TALKコマンドで日本語音声の出力も可能になりました。

起動時にBASICのモードを選択するメニューが表示され、PC-6001の様々なハードウェア構成との互換性を確保していました。しかし、実用用途の主流は既にPC-8801mkIIなどに移行しており、PC-6001mkIIは主にホビー用途で利用されることになります。

160×200ドット15色表示は、解像度は低かったものの、少ない画素数により処理が軽減され、動きのあるソフトウェアが開発されました。しかし、320×200ドット4色表示では色数が少なく、表現力に制限がありました。また、グラフィックチップがカスタムICに変更されたことで、PC-6001用ソフトの一部は動作しなくなりました。

PC-6001mkII SR

1984年11月15日発売。メーカー希望小売価格は8万9800円でした。PC-6001mkIIの後継機種で、PC-6601SRとほぼ同等の仕様でした。デザインはPC-6001mkIIを踏襲しつつ、角が丸みを帯びた形状となっていました。

グラフィック機能がさらに強化され、640×200ドット表示や80桁×25行のテキスト表示に対応しました。サウンドチップにはFM音源が搭載され、表現力豊かなサウンドと音階で歌う音声合成機能が実現しました。しかし、市場では同時に発売されたMr.PCに注目が集まりました。

起動時には複数のモードを選択する必要があり、操作性は複雑でした。付属ソフトはカセットテープで提供されました。320×200ドット15色表示に対応しましたが、市場では既に上位機種への移行が進んでいたため、前機種ほどのヒットには至りませんでした。

まとめ

PC-6000シリーズは、独自の設計思想と充実したサウンド機能、そして個性的なデザインで多くのユーザーを魅了しました。家庭用パソコン市場において重要な役割を果たした機種群として、その歴史は今も語り継がれています。PC-6000シリーズに関する書籍やWebサイトも存在し、その歴史や魅力を深く知ることができます。

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