QuickDraw

QuickDraw：Macintoshグラフィックスの礎を築いた描画API

QuickDrawは、AppleのClassic Mac OSで利用されていた画像描画APIです。MacintoshのGUIにおいて、その視覚的な表現を支えた重要な技術であり、後のグラフィックス技術にも多大な影響を与えました。本稿では、QuickDrawの歴史、技術的な詳細、そしてその後の展開について解説します。

QuickDrawの誕生とLisaGraf

QuickDrawの起源は、Apple Lisa用の描画関数群として開発されたLisaGrafにあります。ビル・アトキンソン氏を中心に開発され、当初はLisa専用でしたが、後にMacintoshへの搭載も決定、名称をQuickDrawへと変更されました。

その開発には、Xerox PARCにおけるAltoシステムとの出会いが大きな影響を与えています。当時、Altoの高速な描画処理に感銘を受けたアトキンソン氏は、不定形クリッピング描画の実現を目指し、LisaGraf、そしてQuickDrawを開発しました。この成果により、アトキンソン氏はAppleフェローの地位に上り詰めました。

MacintoshにおけるQuickDrawの進化

初期のMacintoshでは、QuickDrawは簡略化された形で搭載されました。1ビットの白黒表示に対応し、512×342ピクセルの固定サイズスクリーンに最適化されていました。その後、Macintosh IIの登場により、フルカラー表示に対応する必要性が生じ、大幅な拡張が行われました。これがColor QuickDrawです。

Color QuickDrawは、複数のモニタへの対応、カラー表示、新しいデータ構造（PixMap）などを導入しました。既存のQuickDrawとの互換性を維持しつつ、カラー表示への対応を実現するための様々な工夫が凝らされています。例えば、新しい構造体を古い構造体と同じサイズに保ち、データメンバの位置も変更しないといった手法を用いています。

さらに、24ビットカラーに対応した「32-Bit QuickDraw」へと進化を遂げ、より高度なグラフィックス処理が可能になりました。オフスクリーン描画のためのGWorldの導入もこの段階で行われました。GWorldは、メインメモリやビデオRAMを利用してオフスクリーンバッファを管理し、描画処理の効率化に貢献しました。

QuickTimeとの統合とその後

QuickTimeの登場により、QuickDrawはJPEGなどの圧縮ラスターデータの扱いを可能にしました。QuickTimeの画像圧縮マネージャはQuickDrawと緊密に統合され、圧縮データの解凍と描画がシームレスに行われるようになりました。ColorSyncカラーマッチングとの連携も強化されました。

その後、PowerPCプロセッサへの最適化が行われましたが、基本的なアーキテクチャはClassic Mac OSの終焉まで大きな変更を受けることはありませんでした。QuickDraw GXやQuickDraw 3Dといった関連技術が登場しましたが、互換性は限定的でした。

Mac OS XとQuickDrawの終焉

Mac OS Xでは、QuickDrawはCarbon APIの一部として提供されましたが、2005年のMac OS X v10.4リリースに伴い、公式には非推奨となりました。Quartz 2Dへと移行が進められ、互換性維持のための一時的な措置としてMountain Lionまで残されましたが、その後完全に姿を消しました。2010年には、MacPaint 1.3のソースコードが公開され、QuickDrawの歴史的なソースコードも閲覧可能となりました。

まとめ

QuickDrawは、MacintoshのGUIを支えた画期的な描画APIです。その歴史は、Macintosh自身の進化と深く結びついており、コンピュータグラフィックスの歴史において重要な役割を果たしました。単純な白黒表示からフルカラー表示、そして高度な画像処理までを可能にしたQuickDrawの技術的進化は、後のグラフィックス技術に大きな影響を与え続けました。現在では、新しいAPIに置き換えられていますが、その功績は今もなお高く評価されています。

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