QuickTime

QuickTime（クイックタイム）とは

QuickTimeは、かつてAppleが開発していたマルチメディア技術です。音楽、動画、画像、テキストデータなど、さまざまな種類のデータを扱うことができます。広義には、メディアプレーヤーのQuickTime Playerや、編集・変換ソフトのQuickTime Player Proも含まれます。

ただし、macOS v10.6以降に搭載されているQuickTime Xは、iOSのマルチメディア技術をベースにしたもので、従来のQuickTimeとは基本的に異なるシステムです。詳細については、QuickTime Xの項目を参照してください。なお、現在の後継技術はAVFoundationとなっています。

QuickTimeの概要

QuickTimeは、狭義にはマルチメディア技術そのものを指しますが、広義には、メディアプレーヤーのQuickTime Player（旧Movie Player）や、メディアデータの編集、変換、保存が可能なソフトウェアQuickTime Player Pro（旧Movie Player Pro）も含まれます。

QuickTime Playerは無料で利用できますが、QuickTime Player Proにアップグレードするには有料となります。QuickTime本体は通常版とPro版で同じモジュールベースであるため、プログラミングの知識があればPro版相当の機能を使うことが可能です。macOSであれば、AppleScriptからも制限なく機能を利用できます。また、iLifeなどのApple製ソフトウェアでも利用されています。

ただし、無料配布であっても、AACなどの特許技術についてはPro版でのみ利用可能です。

QuickTime自体はライブラリであり、AppleのiTunesやFinal Cut Proといったマルチメディア系アプリケーションの動作の中核を担っています。また、多くのデジタルカメラやビデオカメラで、写真や動画の撮影、再生にQuickTimeが使用されています。

QuickTimeのファイル形式であるmovコンテナは、トラックと呼ばれるレイヤー構造を持ち、動画や音声だけでなく、テキストトラックやチャプタトラックを含めることができます。この構造は、MPEG-4のファイルフォーマットであるMP4やJPEG 2000のファイルフォーマットであるJP2などにも採用されており、そのベースとなっています。

QuickTimeの歴史

QuickTimeは1991年12月2日に、MACWORLD EXPOで発表されました。当時のApple CEOであるジョン・スカリー氏の基調講演で紹介され、同時にQuickTimeコーデックを採用したAdobe Premiereも発表されています。

1998年にリリースされたQuickTime 3では、ストリーミング再生機能が追加されました。1999年のQuickTime 4からはMP3フォーマットに対応し、JavaアプリケーションからQuickTimeの機能を使えるQuickTime for Javaが追加されました。2000年のQuickTime 5では、Macromedia Flashのサポートが加わりました。

2002年のQuickTime 6以降は、国際標準の採用によってオープンな規格へと方針が転換されました。QuickTime 6ではMPEG-4が採用され、QuickTime 7ではH.264が新たに採用され、圧縮効率と標準化の両面で大きく進化しました。QuickTime 6.3では3GPP、QuickTime 6.5では3GPP2に対応し、かつての第三世代携帯電話向けコンテンツの標準ツールの一つとなりました。

対応OS

QuickTimeの対応OSは、以下の通りです。

Mac OS X v10.2：QuickTime 6.5.3まで
Mac OS X v10.3：QuickTime 7.5まで
Mac OS X v10.4：QuickTime 7.6.6まで
macOS 10.15 Catalina：QuickTime 7フレームワークと32ビットアプリケーションは非対応
Windows 95：QuickTime 5.0.5まで
Windows 98/Me：QuickTime 6.5.2まで
Windows NT 4.0：QuickTime 6.1まで
Windows 2000：QuickTime 7.1.6まで
Windows XP：QuickTime 7.7.6まで

2016年4月には、Windows版QuickTimeのセキュリティアップデート提供が終了し、アンインストールが推奨されました。Appleも2016年4月20日にQuickTime 7 for Windowsのサポート終了を発表しました。

API

macOSでは、Classic Mac OSから移植・整理されたAPIであるCarbonでQuickTimeが構築、提供されています。Windowsへの移植では、QuickTimeライブラリのAPIが整理され簡潔になったことが大きな貢献となりました。

QuickTimeは旧Mac OS系の技術であり、Cocoaでのオブジェクト指向プログラミングとの親和性が課題となっていました。しかし、macOSでのプログラミングの幅を広げるため、QuickTime 7よりCocoaでQuickTimeライブラリを参照するためのQuickTime Kit (QTKit) が提供されるようになりました。これにより、ソフトウェア開発者は強力なCocoa APIでQuickTimeを簡単に利用できるようになりました。QTKit導入後は、Carbonアプリケーションを含めてQTKitを利用することが推奨されています。

macOS v10.6で導入されたQuickTime XはCocoaベースで作られておりQuickTimeとは異なる技術ですが、QTKitを使っている限りQuickTime XとQuickTime双方に同じAPIでアクセスでき、プログラマーは両者の違いを意識する必要はありません。

QuickTimeの特徴

QuickTimeは、以下のような特徴を持っています。

フォーマット: QuickTimeフォーマット(.mov)やMP4フォーマットのほか、AVIフォーマットやAdobe Flashも再生可能。
グラフィック: JPEG 2000やTIFF、PNGなど、最新のフォーマットをサポート。Photoshopのレイヤーも読み込み可能。
オーディオ: MP3、AAC、Apple Losslessなど高音質・高圧縮のオーディオフォーマットに対応。
ムービー: H.261、H.263、MPEG-4、H.264、3GPP/3GPP2、Pixletなどに対応し、高画質ながらもコンパクトに保存可能。macOS High Sierraでは、HEVCにも対応。
参照ムービー: ムービーのリンクと再生範囲を記録。ムービーにおけるエイリアス、ショートカット、シムリンク。
ヒントトラック: QTSSでのストリーミングを行うためのトラックで、パケットごとの区切りを示す。
インタラクティブ: ユーザーの操作に応答するインタラクティブなコンテンツを再生可能。
Virtual Reality（仮想現実）: QuickTime VRにより、360度パノラマムービーの作成/再生が可能。Cubic VRやObject VRも構築可能。
モバイル: 3GPP、3GPP2の採用により、携帯電話とパソコン間でのマルチメディアコンテンツの相互通信が可能。AMCフォーマットも作成/再生可能。
インターネット: QuickTime Streaming Serverにより、マルチメディアコンテンツの配信が可能。QuickTime Broadcasterを用いれば、生中継も簡単に配信可能。Darwin Streaming Serverは、LinuxやWindowsでも運用可能。
拡張性: 新しいファイルフォーマットにもすぐに対応できる。QuickTimeコンポーネントを用いれば、MPEG-2やDivX、iPIX、On2VP3、ZyGoVideo、WMVなどの再生・作成も可能。
クロスプラットフォーム: WindowsにもQuickTimeが提供。
AltiVec対応: PowerPC版Mac OS Xでは、SIMD演算機能であるVelocity Engine (AltiVec) に対応し、PowerPC G4/G5の能力を引き出すことができる。
ストリーミングSIMD拡張命令 (SSE) 対応: インテル版macOSでは、SIMD演算機能であるSSEに対応し、Intel Core, Core 2の能力を引き出すことができる。

QuickTimeの特筆すべき点は、トラックによるファイル構造の柔軟性です。movファイルは、ビデオトラックのみ、[音声]]トラックのみを含むものなど、さまざまな形式で作成できます。例えば、既存のmovファイルにヒントトラックを追加するだけで、ストリーミング配信が可能になります。トラックは、JPEGでもDivX、WMA、[[H.264]など、さまざまな形式のデータを含めることができ、同じコンテナ上で再生できます。

QuickTimeでは、ムービーの様々なトラックは、画像におけるレイヤーのように利用できます。

QuickTime Playerの再生可能なファイル形式

音声ファイル: mp3, mov, aiff, wav, .flac
動画ファイル: mov, avi, 3gpp, 3gpp2
画像ファイル: jpeg

その他

イースターエッグ: QuickTimeをインストールしたMacを、コマンドキー、optionキー、Qキー、Tキーを押しながら立ち上げると、起動画面のアイコン列にQuickTimeが加わる瞬間、開発スタッフの写真がQuickTimeムービーで表示される。

脚注

出典、参考文献、関連項目、外部リンクについては、原文を参照してください。

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