R. G. D. アレン

R. G. D. アレン

R. G. D. アレン、本名ロイ・ジョージ・ダグラス・アレン卿（Sir Roy George Douglas Allen）は、1906年6月3日にイングランドのウスターシャー州ウスターに生を受けた、20世紀を代表するイギリスの経済学者です。1983年9月29日に77歳でこの世を去りました。彼の学術的なキャリアの中心はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）にあり、そこで数理経済学、統計学、数学という三つの分野を横断する研究と教育を行いました。

略歴

アレンは故郷ウスターにあるロイヤル・グラマー・スクールで基礎を学び、その後ケンブリッジ大学のシドニー・サセックス・カレッジに進学しました。ケンブリッジでは数学を専攻し、優等（First Class Honours）で卒業しただけでなく、ウラングラ奨学金を受賞するなど、その才能を早くから認められました。卒業後、彼はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）に着任し、統計学の講師として学究生活をスタートさせます。

彼のキャリアにおける重要な転換点の一つは、後にノーベル経済学賞を受賞するジョン・ヒックスとの共同研究でした。1934年、二人は経済学専門誌『エコノミカ』に「価値理論の再検討（A Reconsideration of the Theory of Value）」と題する画期的な論文を発表します。この論文は、その後のミクロ経済学の発展に決定的な影響を与えることになります。

学術的な功績が認められ、アレンは多くの栄誉を受けました。1966年にはナイトの称号（CBE）を授与され、サーの称号を持つことになりました。同年には王立統計学会の会長を務め、同学会から金メダル（The Guy Medal in Gold）を贈られています。また、晩年の1978年にはイギリス学士院の会計担当理事（Treasurer）を務め、同学士院のフェロー（FBA）でもありました。母校であるケンブリッジ大学シドニー・サセックス・カレッジのフェローも務めています。

業績

アレンの学術的な貢献は多岐にわたりますが、特に以下の点が挙げられます。

効用理論と需要分析の刷新: ジョン・ヒックスとの共同論文「価値理論の再検討」は、レオン・ワルラスやヴィルフレド・パレートに代表されるローザンヌ学派の理論を、英米圏の経済学界に広く紹介する上で極めて重要な役割を果たしました。この論文は、消費者の効用最大化行動から需要関数を導出する現代的な手法を確立し、価格変化が需要量に与える影響を、所得効果と代替効果に分離する分析枠組み（これは後にロシアの経済学者スルツキーが提示した方程式と本質的に同等であることが認識され、「スルツキー方程式」として知られるようになります）を提示しました。この分析は、新古典派経済学におけるパレート流の無差別曲線分析に基づいたアプローチを復興させる契機となりました。
数理経済学の基礎確立: 1938年に出版された彼の主要著作『経済研究者のための数学解析（Mathematical Analysis for Economists）』は、その後の世代の経済学者が数理的な分析手法を習得するための標準的な教科書となりました。この著書では、「代替の部分弾力性」のような独自の概念を導入するなど、数理的な視点から経済理論を深く掘り下げています。
統計学と実証経済学への貢献: アレンのキャリア後半の研究は、小売価格指数や消費者物価指数といった統計学的な問題に重心が移っていきました。また、アーサー・ボウリーとの共同研究として1935年に発表した有名な家計支出調査とその分析は、経験的なミクロ経済学の初期における先駆的な研究例として高く評価されています。

主要著作

日本語訳

『数学研究者のための統計学』（大石泰彦・大澤豊共訳、東洋経済新報社、1952年）
『経済研究者のための数学解析』（上巻・下巻、高木秀玄訳、有斐閣、上巻1953年・下巻1954年）
『数理経済学』（上巻・下巻、安井琢磨・木村健康監訳、紀伊国屋書店、上巻1958年・下巻1959年）
『経済・経営のための基礎数学』（上巻・下巻、高木秀玄訳、上巻1963年・下巻1964年）
『アレン現代経済学――マクロ分析の理論』（上・下、新開陽一・渡部経彦共訳、東洋経済新報社、1968年）
『指数の理論と実際』（溝口敏行・寺崎康博共訳、東洋経済新報社、1977年）

原書

Family Expenditure, with A.L. Bowley, 1935.
Mathematical Analysis for Economists, 1938.
Statistics for Economists, 1949.
Mathematical Economics, 1956.
Macroeconomic Theory, 1967.
Index Numbers in Theory and Practice, 1975.
Introduction to National Accounts Statistics, 1980.

R. G. D. アレンは、理論と実証、そして数学と統計学を結びつけることで、経済学の研究手法と理解を深めることに貢献した、その功績は今日でも高く評価されています。

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