RETAS STUDIO

RETAS STUDIO（レタススタジオ）とは

RETAS STUDIO（レタススタジオ）は、かつて株式会社セルシスが販売していたアニメーション制作ソフトウェアスイートです。旧称はRETAS!（レタス、Revolutionary Engineering Total Animation System）で、同社の登録商標でした。各ソフトウェアは個別に販売されていましたが、2015年に販売が終了し、2019年11月には公式掲示板によるサポートも終了しました。

概要

RETAS STUDIOは、アナログのアニメーション制作（セルアニメ）の全工程をデジタル環境で再現できるのが最大の特徴です。「作画」「トレース」「仕上げ（彩色）」「撮影」といった、従来のアニメ制作における各工程をデジタル化し、作業効率の向上に貢献しました。1990年代中頃から2000年代前半にかけて、スタジオジブリを除くほぼ全てのアニメ制作会社で導入され、日本のアニメ業界のデジタル化を牽引しました。

セルアニメ制作の経験者が操作しやすいように、旧来の専門用語が数多く使用され、従来の分業制に対応できるよう、各工程に特化したツールが用意されていました。具体的には、作画用の「Stylos（スタイロス、旧称PencilMan）」、トレース用の「TraceMan（トレースマン）」、彩色用の「PaintMan（ペイントマン）」、撮影用の「CoreRETAS（コアレタス）」に分かれており、各工程の専門性を維持しつつ、デジタル化を実現しました。

また、Windows版のRETAS STUDIOには、編集ソフトであるMovie Edit Proが同梱されていました。

当初、RETAS STUDIOは業務用として非常に高価なソフトウェアでしたが、2001年からは機能制限付きの廉価版が、2008年からはフル機能の廉価版が販売されるようになり、アニメーションの専門学校生や自主制作アニメーターなど、幅広いユーザーに利用されるようになりました。

同時期に展開されていた漫画制作ソフト「コミックスタジオ」と同様に、「CLIP STUDIO PAINT」が後継ソフトとして位置づけられ、2015年に販売を終了しました。サポートも終了しましたが、その普及率の高さから、2020年代に入ってもなお、日本のアニメ制作現場で使用されています。

歴史

1993年に初代「RETAS! PRO」が発売されました。当時の販売価格は1,600万円、ハードウェアを含めたシステム最小構成価格は540万円を超える高価なものでした。初代では、デジタル作画ツールである「ペンシルマン（後のスタイロス）」はまだ搭載されておらず、紙に描かれた線画を取り込む形で利用されていました。このため、従来のアナログ制作からの移行がしやすく、他のCGソフトとの連携も容易でした。

また、高価なワークステーションではなく、一般的なパソコン（Mac）で動作すること、分業を前提としたネットワーク機能を持つことなども、移行を容易にした要因です。これらの点が評価され、開発者は1994年度の日本映画テレビ技術協会奨励賞を受賞しました。

1996年からは東映動画（現東映アニメーション）をはじめ、多くのアニメ制作会社で導入が進みました。2000年頃には、日本のアニメ制作会社のほぼ全てで採用され、アニメ業界の標準ソフトウェアとなりました。東映動画は、1億5000万円をかけてRETASを導入した結果、アニメ1本当たり40万円、年間1億円のコスト削減に成功し、2年で初期投資を回収しました。

2001年8月には、コンシューマー向けの「RETAS! LITE」が発売されました。作画ソフトの「PencilMan LITE」（単体販売）、トレース、彩色、撮影ソフトのセット「Standard Pack」の2種類のパッケージが販売され、各ソフトも単体で通信販売されました。この際、セルシス初の漫画制作ソフトである「ComicStudio」も発売されました。

2003年には、個人ユーザー向けのエントリーモデルとして「RETAS! LITE Debut」が発売されました。低価格で提供されましたが、出力サイズや対応フォーマットに制限がありました。この頃、デジタル環境で制作されているアニメの90%以上がRETASを使用していたとされています。

2005年には、「RETAS! PRO HD」が発売されました。アニメのHD化に対応した機能強化が施されましたが、各ツールの価格は高価で、一般ユーザーが購入するにはハードルが高いものでした。

2008年12月には、コンシューマー向けの「RETAS STUDIO」が発売されました。旧来の「RETAS! PRO HD」と中身はほぼ変わらないものの、「Stylos」「TraceMan」「PaintMan」「CoreRETAS」の4本をセットで、大幅に価格を下げたため、一般ユーザーでもプロと同じソフトを利用できるようになりました。認証用のドングルも廃止されました。

2015年に販売を終了し、「CLIP STUDIO PAINT」が後継ソフトとして位置づけられました。

開発終了と後継ソフト

2015年に「RETAS STUDIO」の開発が終了し、後継ソフトとして「CLIP STUDIO PAINT」が位置づけられました。それに伴い、これまで「撮影」工程を担っていた「CoreRETAS」は、Adobe After Effectsに置き換えられました。CLIP STUDIO PAINTは、RETAS STUDIOの後継としてアニメーション機能が強化されましたが、イラストや漫画にも対応した多機能なソフトであるため、アニメーション制作に特化したRETAS STUDIOと比較すると、効率の面で課題があります。

また、RETAS STUDIOは、長らく更新されていないため、OSのアップデートによる不具合が懸念されています。一方、「CLIP STUDIO PAINT」は漫画やイラストを主眼としているため、アニメ業界が求める機能追加が少ないという問題も指摘されています。

このような状況から、2020年代においても、作画にCLIP STUDIO PAINTを使用せず、アナログ作画を「TraceMan」でデジタル化するアニメーターや、仕上げ工程で「PaintMan」を使用する人が多く存在しています。

2016年には、スタジオジブリが使用していたアニメーション制作ソフト「Toonz」をドワンゴが買収し、「OpenToonz」として無償公開されましたが、業界への普及には至っていません。

これらの課題を解決するため、2024年にはソニーグループが、アニメーション制作に特化した「AnimeCanvas」の開発を発表しました。アニメ業界標準を目指し、収益化は行わない方針です。

ソフト内容

RETAS STUDIOは、以下の主要なソフトウェアで構成されています。

Stylos（スタイロス、旧PencilMan）: デジタル作画ソフト。レイアウト、原画、動画を作成します。
TraceMan（トレースマン）: アナログで作画された動画をスキャンし、彩色しやすいようにトレースするソフトです。
CoreRETAS（コアレタス）: 彩色された画像と背景を重ね合わせ、撮影するソフトです。
Movie Edit Pro（Windows版のみ）: 動画編集ソフト。
PaintMan（ペイントマン）: アニメーションの仕上げ工程を担当するソフトウェアです。動画のスキャン後のクリンナップと彩色を行います。

リリース履歴

RETAS! PRO（1993年発売）
RETAS! PRO Infinity（2001年8月6日発売、公式ガイドブックの付属CD-ROM）
RETAS! LITE（2001年8月10日発売）
RETAS! LITE Debut（2003年3月14日発売）
RETAS! PRO HDシリーズ（2005年9月9日発売）STYLOS HD、TraceMan HD、PaintMan HD、CoreRETAS HD（2006年7月7日発売）
RETAS STUDIO（2008年12月19日発売）

公式ガイドブック

『RETAS! PRO Infinity テクニックバイブル - デジタルアニメーションを作ろう!!』（SBクリエイティブ、2001年8月6日発売）
『RETAS! LITEではじめるデジタルアニメーション』（ビー・エヌ・エヌ新社、2002年12月27日発売）
『アニメーションをつくろう！RETAS STUDIO TECHNIQUE』（ビー・エヌ・エヌ新社、2009年6月25日発売）

脚注

[出典]

関連項目

アニメ (日本の[[アニメーション作品)]]#制作工程#%E5%88%B6%E4%BD%9C%E5%B7%A5%E7%A8%8B)
DigitalLoca
2D[[アニメーション制作ソフト一覧]]

外部リンク

RETAS STUDIO.net
RETAS STUDIO テクニカルインフォメーション
CLIP | 創作活動応援サイト

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