SBM (野球)

SBM

SBMとは、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスが、秋山幸二監督の就任初年度である2009年シーズンに確立したリリーフ投手陣を指す愛称です。具体的には、当時チームの勝利の方程式を担った3人の投手、すなわち攝津正（S）、ブライアン・ファルケンボーグ（B）、馬原孝浩（M）の頭文字を組み合わせたものです。

この名称は、親会社であるソフトバンクグループの携帯電話事業会社「ソフトバンクモバイル」をもじってつけられたもので、一部の報道機関ではファルケンボーグの姓ではなく「ボーグ」のBを採ることもありました。

誕生の背景

SBMが誕生した背景には、2008年シーズンのチームの苦境がありました。長年ホークスのブルペンを支えてきた篠原貴行や三瀬幸司といった中継ぎ陣に衰えが見え始め、チーム全体の救援防御率は12球団で最も低い4.42を記録し、12年ぶりの最下位に沈みました。この結果を受け、王貞治監督が勇退。新たに指揮を執ることになった秋山幸二監督にとって、前年崩壊したリリーフ陣の再建は喫緊の課題でした。特に、すでに不動の守護神として活躍していた馬原孝浩へ無失点で繋ぐ強力なセットアッパーの確立が求められました。

この課題に応えるべく、ルーキーの攝津正がオープン戦での好投を買われてセットアッパーに抜擢されます。攝津は期待通りの安定した投球でピンチを幾度も凌ぎ、その地位を確固たるものにしました。さらに、新外国人のブライアン・ファルケンボーグが、主にリードした展開での起用に応え、開幕から交流戦にかけて自責点0という完璧な投球を披露。これにより、馬原へと繋ぐ盤石なセットアッパーが2枚揃うこととなり、攝津→ファルケンボーグ→馬原という、強力な継投による必勝パターンが確立されました。

この3投手によるリレーは、前述の通り5月頃から「SBM」と呼ばれるようになり、6月には球団公式の愛称として定着しました。

しかし、その船出は順風満帆ではありませんでした。前年のWBCの影響か、守護神の馬原は直球のシュート回転や制球難に苦しむなど、不安定な投球が目立ちました。また、SBMに次ぐリリーフ陣の層が薄く、久米勇紀の離脱や三瀬の不調なども重なり、本来勝ちパターンでの起用が想定されていた攝津が、ビハインドや大差の場面でも登板せざるを得なくなるなど、SBMの3投手に大きな負担がかかりました。夏場にはファルケンボーグが肘の故障で一時帰国（終盤に復帰も不調）、馬原も大炎上する試合があるなど、シーズン終盤にかけて安定感を欠くようになり、チームも失速。楽天に追い上げられ、3位に終わりました。それでも、攝津はこの年パ・リーグ新人最多の70試合に登板し、最優秀中継ぎ投手と新人王を獲得。ファルケンボーグも攝津に次ぐリーグ2位のホールド数を記録するなど、個人としては圧倒的な成績を残しました。

SBM48への発展

続く2010年シーズン、チームはさらなる投手陣の強化を図ります。前年不調だった馬原孝浩は守護神として復活し、圧倒的な安定感を取り戻しました。ファルケンボーグも前年以上のピッチングを見せ、8回・9回を任せられる信頼感は12球団屈指となりました。懸念された攝津も、前年ほどの安定感はなかったものの、十分な投球を見せました。しかし、先発投手の層が薄く、攝津が頻繁にリリーフ登板を余儀なくされるなど、攝津とファルケンボーグの負担軽減のため、もう一枚のリリーフの柱が必要であることは明らかでした。

そこで頭角を現したのが、プロ5年目の甲藤啓介でした。開幕当初は主にビハインドの場面で起用されていましたが、首脳陣は制球力の向上を高く評価。4月27日の楽天戦では、通常攝津が登板するであろう1点差の7回に投入されます。甲藤はこの難しい場面を無失点で切り抜け、期待に応えました。これを機に甲藤の投球は安定感を増し、主に僅差でのビハインドや、攝津・ファルケンボーグの休養日に代役を務めるなど、3人目に続くセットアッパーとしての地位を確立しました。

甲藤の加入によってSBMは4人体制となりました。「SBMK」や「KSBM」といった新たな呼び名も提唱されましたが、語呂の悪さから定着しませんでした。そんな中、甲藤の背番号「48」と、当時人気絶頂だったアイドルグループ「AKB48」を掛け合わせた「SBM48（えすびーえむ・ふぉーてぃーえいと）」という呼び名が、Twitterやスポーツ紙などで用いられるようになり、その語呂の良さから公式的な愛称として広く認知されるようになりました。甲藤自身も、シーズン途中でAKB48の楽曲「会いたかった」を入場曲に使用するなど、この愛称を後押ししました。

SBM48が結成され、リリーフ陣の駒は増えましたが、長いイニングを投げられる先発投手が限られていたチーム事情もあり、攝津やファルケンボーグを含む4人にかかる負担は依然として大きいままでした。シーズン途中には、オリックスから移籍した金澤健人がビハインドや僅差の場面で好投を見せるなど、ブルペン陣はさらに強化されました。また、敗戦処理やワンポイントとして起用されていた森福允彦が夏場以降に調子を上げ、左腕の貴重な戦力として台頭しました。特に8月26日のオリックス戦で延長回に5者連続三振を奪うなど印象的な活躍を見せ、翌日にはプロ初勝利も記録しました。森福のニックネーム「ちょめ」にちなみ、同時期にAKB48が「ぷっちょ」のCMで用いた「AKB48ちょ」をもじった「SBM48ちょ」、さらに金澤を加えて「火消シックス」といった派生的な愛称も一部で聞かれましたが、これらはSBM48ほど定着しませんでした。

この年、攝津（4勝38ホールド）とファルケンボーグ（3勝39ホールド）は、共に42ホールドポイントを記録し、最優秀中継ぎ投手のタイトルを分け合いました。攝津は2年連続で70試合以上に登板しました。

解体、そしてその後

2011年シーズンを迎えるにあたり、SBM48は解体されることになります。これは、開幕前に甲藤啓介が故障で離脱したこと、そして攝津正が先発投手に転向することが決まったためです。中継ぎ陣には新たに藤田宗一や中継ぎ転向した大場翔太が加わったため、彼らの名前の頭文字である「S」を使ってSBM再結成の可能性も囁かれましたが、藤田の長期二軍暮らしや大場の再度の先発転向により、これは実現しませんでした。

SBMは形としては解体されましたが、先発に転向した攝津が14勝を挙げるなど、先発陣が杉内俊哉、和田毅、攝津、そして最多勝を獲得したD.J.ホールトンといった強力な「四本柱」を形成し、チームの投手力はむしろ強化されました。リリーフ陣も、ファルケンボーグと馬原がシーズン中に離脱する期間がありましたが、森福や金澤が前年以上の活躍を見せ、左右の中継ぎの柱として確立。特に金澤はファルケンボーグや馬原の不在時にはクローザーを務めるなどキャリアハイの成績を残しました。ファルケンボーグもクローザーとして19セーブを挙げ、馬原も終盤に復帰し活躍を見せました。その他、吉川輝昭やシーズン途中加入のヤンシー・ブラゾバン、先発転向前の大場翔太などもブルペンを支え、SBM解体を感じさせない強力な投手陣を形成。チームは2年連続となるリーグ優勝の原動力となりました。

SBM解体については、野球評論家の間でも意見が分かれました。「中継ぎの厚さで勝ってきたチームにとって、攝津の先発転向は得策ではない」という懸念を示す声があった一方で、「先発陣を強化することで、中継ぎ陣にかかる負担を減らすという秋山監督の判断は評価できる」といった肯定的な意見もありました。結果として攝津の先発転向は成功し、チームの勝利に貢献しました。

短期決戦であるクライマックスシリーズや日本シリーズでは、先発の攝津が中一日でのリリーフ待機や、重要な場面でのリリーフ登板を果たすなど、中継ぎとしての信頼も揺るぎないことを示しました。特に日本シリーズ第7戦では、攝津が胴上げ投手となり、チームを日本一へ導きました。

SBMおよびSBM48は短期間の特定のメンバーによる呼称ではありましたが、秋山政権初期における強力なリリーフ陣を象徴する言葉として、その後のホークス黄金時代を築く上での重要な礎石となったと言えるでしょう。

関連項目

勝利の方程式
秋山幸二
高山郁夫
田之上慶三郎

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