SLホテル

SLホテル：蒸気機関車と寝台車が織りなす懐かしの宿泊体験

SLホテルとは、保存された蒸気機関車（SL）に、役目を終えた寝台車を連結して作られた宿泊施設のことです。1970年代のSLブームを背景に、各地で静態保存された蒸気機関車を観光資源として活用しようという試みから生まれました。当時、蒸気機関車は多くの人々を惹きつける存在であり、そこに寝台車を連結することで、集客効果を高めることが期待されました。

日本初のSLホテルは、1974年に中村駅前に開業しました。使用された機関車はC11 117、寝台車には旧型客車が用いられました。それ以前にも、廃車となった客車を宿泊施設に転用する例はありましたが、蒸気機関車と連結したホテルはこれが初めてでした。

SLホテル誕生の背景

SLホテルが全国に広がった背景には、いくつかの要因がありました。

旧型寝台車の活用: 北陸トンネル火災事故をきっかけとした難燃対策や、二段式B寝台への転換によるサービス改善策により、多くの旧型寝台車が廃車となりました。国鉄はこれらの車両の新たな活用策を模索していました。
地方公共団体のニーズ: 地方公共団体からは、宿泊施設として寝台車を利用したいという要望が寄せられていました。
SLの存在: 蒸気機関車運行の末期には、廃車となる蒸気機関車が多数存在しました。
寝台列車の減少: 新幹線や特急列車網の拡充により、寝台列車が減少しつつあり、客車の調達が比較的容易でした。

これらの要因が重なり、SLホテルは短い間に全国各地に誕生しました。当初は旧型客車や10系客車が使用されていましたが、後には20系客車も用いられるようになりました。

SLホテルの特徴

車内の仕様は、B寝台の通路側に仕切りと出入り口を追加し、ホテルの客室としての体裁を整えたものが一般的でした。A寝台を転用したものや、座席車を改造したものなど、さまざまなバリエーションも存在しました。また、フリースペースとして座敷車（座席車を廃車後に改造したものが多い）を備えたSLホテルもありました。個室寝台車は、一部の例外を除いて転用されることはありませんでした。

滋賀県のびわ湖温泉に設置された「オリエント急行」は、個室寝台車（国際寝台車会社）と蒸気機関車をヨーロッパから輸入したものでした。そのため、開設当初はシティホテル並みの宿泊料金が設定されていました。

全国のSLホテル（一部）

深川桜山レジャーランドSLホテル（北海道深川市）：C58 98+10系A寝台車2両+20系食堂車。初めて寝台客車を用いたホテル。
狩勝高原SLホテル（北海道新得町）：59672（9600形）+20系A寝台車2両＋20系B寝台車改造の食堂車。現在もNPO法人により不定期に宿泊会が開催されることがあります。
小岩井農場SLホテル（岩手県雫石町）：D51 68+20系ナロネ21客車5両。国内で最後に営業したSLホテル。
川場村武尊高原・ホテルSL（群馬県川場村）：D51 561+20系B寝台車6両。
長瀞SLホテル（埼玉県長瀞町）：D51 96+20系A寝台車+20系Ｂ寝台車3両。
野辺山SLホテル高原列車（長野県南牧村）：C56 96+10系A寝台車4両、オハ80形座敷車1両。

SLホテルの衰退と現状

かつては10箇所以上存在したSLホテルですが、通常の宿泊施設と比較すると、防音性や客室設備、広さなどの面で劣るというハンデがありました。そのため、一時的なブームが過ぎると客足は遠のき、1980年代に入ると廃業が相次ぎました。蒸気機関車だけが保存されているケースが多いですが、老朽化によりすべて解体されたSLホテルもあります。

2008年11月に小岩井農場まきば園が休業したことで、営業しているSLホテルは国内から姿を消しました。しかし、東福寺野自然公園のように、蒸気機関車を残し、客車を模したログハウスを建てた例もあります。

また、狩勝高原SLホテルで使用されていた20系の個室寝台車ナロネ22形は、20系個室寝台車として唯一現存する車両です。一時は解体の危機に瀕しましたが、機関車を含めた他の車両とともに保存活用されることになりました。


SLホテルは、鉄道ファンにとっては懐かしい思い出を呼び起こす、貴重な存在です。

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