SMASH (格闘技団体)

SMASH

SMASHは、日本のプロレスと総合格闘技を組み合わせた独自のエンターテインメント団体でした。

設立の経緯と名称の由来

SMASHは、2009年12月に設立が発表されました。これは、当時開催予定だったプロレスイベント「ハッスル」の大会が、給与や経費の未払問題、そしてイベント運営に対する考え方の相違から中止となったことが直接的な引き金となりました。ハッスルで最高顧問を務めていた酒井正和氏が、ハッスルとの関係を解消し、新たな団体としてSMASHを立ち上げることを決意したのです。

設立の地は東京都新宿区に定められ、地域密着型の活動を目指すことが掲げられました。また、ハッスルの中止によって払い戻しの対象となったチケットを持つ人々に対しては、SMASHの旗揚げ戦に無料招待する措置が取られました。

団体名の「SMASH」は、設立に中心的な役割を果たした選手であるTAJIRI氏が、「破壊的ヒットを飛ばす」という強い思いを込めて発した言葉に由来しています。

プロレス部門の展開

2010年 3月26日、新宿FACEにて記念すべき旗揚げ戦「SMASH.1」が開催されました。この旗揚げ戦は超満員札止めという大成功を収め、SMASHは順調な船出を切ります。

プロレス部門の活動において、TAJIRI氏は「自分のやりたいことを自由に実験する舞台」として、アメリカンスタイル、ストロングスタイル、ルチャリブレといった既成の枠にとらわれず、ファンや自身が本当に求めるものを提供するという明確なビジョンを持っていました。彼はソフト面、代表の酒井正和氏はハード面を担当するという役割分担で運営が進められました。

SMASHのプロレスには、多様な選手が集結しました。元WWE所属選手や往年のレジェンド、さらには日本ではあまり知られていない世界の強豪など、海外から多くの選手を招聘。対戦の軸として日本人選手対外国人選手を据えつつ、リアルな格闘技の要素も積極的に取り入れたスタイルを展開しました。

興行形式は、主に後楽園ホールで行われる「ナンバーシリーズ」と、新宿FACEを中心とした「ハウスショー」に大きく分けられました。特に大きな大会はTOKYO DOME CITY HALLで開催され、2010年11月の進出時には3,200人を動員し超満員札止めを記録するなど、集客力も証明しました。

選手の発掘・育成にも力を入れ、国内外からプロレスラー志望者を募る「SMASHワールドトライアウト」を実施。旗揚げ戦から合格者を輩出しました。また、2011年にはプロ・アマ問わず参加できるプロレス教室「SMASHプロフェッショナルレスリングクラス」や、TAJIRI氏によるレスラー養成所「SMASHトレーニングキャンプ」を開講するなど、後進の育成にも努めました。

団体独自のタイトルとして、SMASH王座とSMASHディーバ王座が認定されました。短期間ながら、男子・女子ともに国内外の多くの選手が参戦・所属し、特に女子選手では、当時SMASHをレギュラー参戦していた華名選手が提唱した「華名のマニフェスト」が業界内外で大きな議論を呼び、他団体との抗争に発展するなど、大きな話題を提供しました。

総合格闘技部門とその他の活動

SMASHはプロレスだけでなく、総合格闘技の分野にも進出しました。2009年の設立記者会見では、プロ野球選手からの転身という異色の経歴を持つ古木克明氏の入団が発表され、元総合格闘家の小路晃氏が専属コーチに就任しました。さらにモンゴル出身の女子選手エスイも所属するなど、黎明期から注目を集めました。古木氏は総合格闘家転身から1年足らずで大晦日のイベントに出場するなど、実践的な活動を展開しました。

総合格闘技部門では、DEEPとの業務提携により「アマチュアDEEP」の運営を引き継ぎ、アマチュア選手の育成・発掘やレフェリー・ジャッジの育成に尽力しました。また、プロキャリアの浅い選手を対象としたチーム対抗戦「ジャパンMMAリーグ」をDEEPと合同開催するなど、選手育成と競技普及に貢献しました。

さらに2012年には、既存の総合格闘技ブランドであるパンクラスの運営権を取得し、「スマッシュパンクラス事業本部」を設立するなど、総合格闘技分野における事業を拡大しました。

SMASHの活動はプロレス・総合格闘技の興行にとどまりませんでした。東京都新宿区でのゴミ拾い清掃や地域イベントへの参加といった地域密着活動、「はじめてのプロレス」と題した小学校や幼稚園でのデモンストレーションなど、地域貢献や教育支援にも積極的に取り組みました。

メディア事業としては、電子雑誌「SMASH×SMASH」を創刊し、元週刊プロレス編集長の佐久間一彦氏が編集を務めるなど、専門性の高いコンテンツを提供しました。音楽面では「SMASH LABEL」を設立し、国内外のアーティストと連携して選手の入場曲などを制作・販売しました。

ファンサービスにも力を入れ、年会費は高額ながら豪華特典を用意したオフィシャルファンクラブや、全試合終了後にファンと交流できる予約制の「SMASHアフターパーティー」を実施しました。また、若者のパフォーマンス発表や地域活性化を目的とした「SMASH CAMP」も開催するなど、多角的な事業を展開しました。

活動の終焉、そしてその後

しかし、SMASHのプロレス部門は長くは続きませんでした。2012年2月、代表の酒井氏と現場責任者であるTAJIRI氏の間で今後の方向性について意見の相違が生じ、協議の結果、プロレス部門の活動を同年3月で終了することが合意されました。そして、2012年 3月14日、後楽園ホールでの大会「SMASH FINAL」をもって、プロレス部門はその幕を閉じました。

プロレス部門の終了後、株式会社スマッシュは年内いっぱい、天龍源一郎氏が率いる天龍プロジェクトの運営を担いました。そして、TAJIRI氏らは新たなプロレス団体「WNC（Wrestling New Classic）」を設立することを発表し、SMASHの遺伝子の一部は引き継がれることになりました。

株式会社スマッシュ自体は、前述のパンクラス事業本部設立や、Google、Eagleとのパートナーシップ契約、スマートフォンアプリケーション事業での業務提携など、2013年以降も多角的な事業を展開しました。

さらに、プロレス部門終了から長い年月を経た2019年には、富士急ハイランドやドローンネットといった異業種とのコラボレーションによるモトクロスレース、ドローンレース、アイドルオーディションといった新規イベントの開催を発表するなど、様々な分野で事業活動を続けていました。

短期間の活動ながらも、従来のプロレス界の枠にとらわれない自由なスタイル、国際色豊かな選手招聘、そしてプロレス・総合格闘技・メディア・地域貢献といった多角的な事業展開により、SMASHは日本の格闘技・エンターテインメント業界に独自の色を残した団体と言えるでしょう。

もう一度検索