ストロングスタイル

ストロングスタイルとは

ストロングスタイルとは、プロレスにおける一つの概念、主義、コンセプトであり、特にアントニオ猪木が提唱したことで知られています。このスタイルは、レスラー自身の「感情」、特に「怒り」を、レスリングの中で表現することを重視します。新日本プロレスを中心に継承され、その独特なスタイルは、多くのプロレスファンを魅了してきました。

ストロングスタイルの定義

アントニオ猪木は、自身の自伝の中で、ストロングスタイルを「カール・ゴッチ流のレスリング技術と、力道山流のケンカのようなプロレスの凄みを融合させたもの」と述べています。ゴッチのレスリング技術は、日々の鍛錬によって培われた強さを象徴し、力道山のプロレスは、怒りを込めた怨念のプロレスを体現しています。猪木はこの二つの要素を組み合わせることで、独自のスタイルを確立しました。

ストロングスタイルの象徴として、黒いショートタイツと黒いリングシューズ、そして肘や膝のサポーターをつけない姿が挙げられます。このスタイルは、新日本プロレスのヤングライオンたちがまず身につけるものであり、ストロングスタイルの原点とも言えるでしょう。

ストロングスタイルの経緯

アントニオ猪木は、力道山時代から、ジャイアント馬場との待遇の違いに不満を感じていました。彼は「実力至上主義」のプロレスを理想としていましたが、馬場との直接対決は実現せず、自身の団体である東京プロレスも頓挫しました。しかし、1972年に新日本プロレスを設立し、カール・ゴッチとの試合で手応えを感じた猪木は、自身のストロングスタイルを前面に打ち出すようになりました。

猪木は、「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」と公言し、「プロレスこそ最強の格闘技」という信念を貫きました。そして、新日本プロレスを「KING of SPORTS」と標榜し、その主張を世に知らしめるために、異種格闘技戦にも積極的に挑みました。ウィレム・ルスカ（柔道）、モハメド・アリ（ボクシング）、ウィリー・ウィリアムス（空手）など、様々な格闘技の強豪との対戦は、猪木のストロングスタイルを象徴する出来事でした。

猪木の考えや行動は、「猪木イズム」とも呼ばれますが、猪木が引退した現在、ストロングスタイルを実践している団体や、猪木イズムを継承しているレスラーを明確にすることは難しく、議論が分かれるところです。

長州力が創設したWJプロレスは、「目ん玉飛び出るストロングスタイル」をキャッチフレーズに掲げていましたが、実際には派手な技を主体とするスタイルであり、猪木流のストロングスタイルとは異なると言えます。また、武藤敬司は、猪木のプロレスを「アメリカンプロレス」と評し、ミスター高橋は、異種格闘技戦は演出されたものであり、実力主義は演出の賜物であると指摘しています。

「キング・オブ・ストロングスタイル」の異名を持つ中邑真輔は、海外でストロングスタイルがシュートスタイルと誤解されることがあると述べつつ、猪木のストロングスタイルは、ボクシングやレスリングのプロが認める技術に、怒りや生の感情を落とし込んだものだと説明しています。佐山聡は、ストロングスタイルを「相手の技を受けてはいけない」スタイルと定義し、全ての動きがナチュラルであることが重要だと語っています。

しかし、興味深いことに、猪木自身はストロングスタイルについて「誰かが言い出したことで、自分にはわからない」と発言したことがあります。また、棚橋弘至も猪木に直接「ストロングスタイルとは何か」と尋ねたところ、「そんなの知らない」と答えられたという逸話があります。

ストロングスタイルと雑誌

ストロングスタイルという名称は、新日本プロレス関連の雑誌にも使用されています。新日本プロレスが週刊プロレスを取材拒否していた時期に、新日本の情報を扱うスポーツマガジンとして創刊されました。出版社は何度か変更されましたが、ストロングスタイル編集部が編集を担当し、新日本の試合会場パンフレット制作陣が参加していました。

シュートスタイルとの違い

ストロングスタイルと関連して語られることの多いシュートスタイルは、ヨーロッパのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンに端を発するスタイルです。ビリー・ライレー・ジムの卒業生によって継承されていましたが、アメリカンプロレスの人気に押され、衰退してしまいました。カール・ゴッチやビル・ロビンソンといったビリー・ライレー・ジム出身者は、シュートマッチを行ってプロモーターから敬遠されたこともあります。

日本以外では、アントニオ猪木に端を発するストロングスタイルは、佐山聡や前田日明らによってUWFに継承されました。UWFの崩壊後、プロフェッショナルレスリング藤原組、UWFインターナショナル、リングス、パンクラス、キングダムなどのU系団体は、アメリカンプロレスとは異なる日本独特のスタイルとして認識されています。佐山聡は、シュートスタイルを「擬似真剣勝負」と定義しています。

ストロングスタイルは、単なるプロレスのスタイルにとどまらず、アントニオ猪木の思想や生き様を体現した、プロレス界における重要な概念と言えるでしょう。

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