SN 1054

SN 1054超新星'>[超新星]の謎に迫る

1054年7月4日、世界各地で前代未聞の天文ショーが繰り広げられました。それは、SN 1054超新星、別名かに超新星の爆発です。この超新星は、中国、日本、そして中東の記録に残るほど、圧倒的な明るさで輝き、人々の目に焼き付きました。

中国における記録

中国の歴史書『宋史』や『続資治通鑑長編』には、至和元年五月己丑(ユリウス暦1054年7月4日)に、おうし座ζ星付近に「客星」が出現し、2年近く後に消滅したとの記述があります。『宋会要』には、この客星が金星ほどの明るさで、昼間でも23日間観測できたと記されています。これらの記録は、SN 1054の明るさと観測期間を裏付ける貴重な史料です。

日本における記録

日本の歴史記録にもSN 1054の観測記録が残されています。藤原定家の日記『明月記』には、1054年5月～6月頃、オリオン座付近に木星のように輝く星が出現したと記されています。時期の記述に若干の曖昧さはありますが、おうし座の位置関係から、SN 1054を示唆する記録と考えられています。『一代要記』にも同様の記録が残されていることがわかっています。これらの記録は、東アジアにおけるSN 1054の観測が広く行われていたことを示唆しています。

中東における記録

長く、日本や中国以外の地域でのSN 1054の観測記録は存在しないとされていましたが、1970年代になって、11世紀バグダードの医師兼占星術師であったイブン・ブトラーンの著作に、その目撃記録らしき記述が見つかりました。この記録は、1054年頃に輝く星がふたご座に出現したことを伝えており、かに星雲の位置と時期からSN 1054と推定されています。この発見は、SN 1054が世界中で観測されたことを裏付ける重要な証拠となりました。
興味深いことに、イブン・ブトラーンは、この天文現象をアリストテレス的宇宙観とは異なる視点で捉えており、当時の人々の宇宙観を知る上で貴重な資料となっています。また、歴史学者清水宏祐は、この超新星爆発が、1055年のトゥグリル・ベグのバグダード入城というイスラム世界における大きな出来事の前兆として捉えられていた可能性を指摘しています。

アメリカ大陸における可能性

アメリカ・インディアンの壁画に、SN 1054を描写したという説も存在します。しかし、これが超新星を表しているか、単なるシンボルマークなのかは、いまだ議論が続いています。

近代天文学における解明

日本の観測記録は、1930年代に射場保昭によって欧米の天文学者に紹介されました。その後、1940年代には、これらの記録と、かに星雲の観測データから、かに星雲がSN 1054の残骸であることが確実視されるようになりました。1960年代には、かに星雲からのX線や、かにパルサーの発見により、SN 1054超新星爆発の解明は大きく進展しました。

SN 1054超新星は、歴史的記録と現代天文学の両面から研究され続けている、天文学史における重要な天体です。その輝きは、千年以上を経た現在もなお、人々の関心を集め続けています。

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