射場保昭

射場保昭：実業家にして国際的なアマチュア天文家

射場保昭（いば やすあき、1894年8月2日 - 1957年4月24日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家であり、アマチュア天文家です。貿易商として財を成す一方、天文学への情熱を注ぎ、私設天文台を設立、国際的な交流を通じて天文学の発展に貢献しました。

生い立ちと実業家としての道

射場保昭は、1894年、東京深川にて、肥料輸入・販売会社「鈴鹿商店」の創業者・鈴鹿保家の嫡男として誕生しました。幼名は「鈴鹿 醇」。

久松小学校を飛び級で卒業後、京華中学校に進学しますが、父の友人である兼松房治郎（兼松商店創業者）の勧めで13歳からオーストラリアに留学します。シドニー大学スコッチカレッジで4年間、農政経済を学びました。1916年頃に帰国し、鈴鹿商店の事業拡大に貢献。1918年ないし19年ごろには神戸に移住し、関西での事業拡大を担いました。1920年、父の死後、「二代目鈴鹿保家」を襲名し、鈴鹿商店の店主となりました。

天文学への情熱と国際的な交流

家業を姉婿に任せた後、射場は「射場保昭」を名乗り、アマチュア天文家として活動を開始します。花山天文台の山本一清や東京天文台の神田茂らと親交を深め、1928年には神戸の自宅に私設天文台「射場天体観測所」を開設しました。

射場天体観測所は、当時としては非常に本格的な設備を備えており、観測機材や星図・星表などは、東京天文台、花山天文台に次ぐ規模を誇っていました。東京天文台の広瀬秀雄の指導のもと、観測機器は充実し、天文雑誌や海外からの出版物も多数所蔵していました。

オーストラリア留学で培った英語力を活かし、ハーバード大学天文台のハーロー・シャプレー、E. S. キング、カナダ王立天文学会のC. A. チャント、アメリカの『ポピュラー・アストロノミー』誌の編集長C. H. ギングリッチなど、海外の天文学者と積極的に交流し、情報交換を行いました。

1931年には、射場の英文報告「Amateur Astronomy and Telescope Making in Japan」が『ポピュラー・アストロノミー』誌に掲載され、1932年にはカナダ王立天文学会、英国天文学会、1935年には英国王立天文学会の会員に認められました。

『明月記』の海外紹介と超新星研究への貢献

射場の業績として特筆すべきは、藤原定家の日記『明月記』に記された「客星」（超新星など）の記録を海外に紹介したことです。1932年に自費出版した英文小冊子「Fragmentary Notes on Astronomy in Japan」を通じて、この記録を世界に伝えました。

この小冊子は、ギングリッチの編集により、『ポピュラー・アストロノミー』誌に掲載され、『明月記』に記録された1054年の超新星の光度や存続期間の記述が、ニコラス・メイオールやヤン・オールトらの研究に繋がり、かに星雲が超新星残骸であることの解明に貢献しました。この功績により、射場の名は広く知られることとなりました。

射場がどのように『明月記』の情報を得たかは定かではありませんが、神田茂や井本進らの協力があったと考えられています。

晩年と再評価

射場は、天体写真の分野でも先駆的な業績を残し、『天文月報』に多くの論文を発表しました。1935年には日本天文学会の評議員に就任しましたが、日米関係が悪化すると、海外との交流が困難になり、本業の経営も傾きました。第二次世界大戦後、鈴鹿商店は清算会社となり、射場は所有していた観測機材を東京天文台に寄贈しました。

戦後、射場は天文活動から離れ、その存在は忘れられていきましたが、2009年からのプロジェクト研究をきっかけに、竹本修三氏による調査が進められ、2012年には遺族が名乗り出たことで、その功績が再評価されることになりました。

射場の功績を称え、2014年には[小惑星]に「射場」という名前が付けられました。

射場保昭は、実業家としての成功だけでなく、天文学への情熱と国際的な貢献を通じて、その名を歴史に刻んだ人物です。彼の業績は、天文学の発展に大きな足跡を残し、後世に語り継がれています。

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