トゥグリル・ベグ

トゥグリル・ベク：セルジューク朝の創始者

トゥグリル・ベク（Tughril Beg、990年 - 1063年 9月4日）は、セルジューク朝の創始者であり、初代スルターンとしてその名を歴史に刻みました。彼の生涯は、遊牧民の族長からイスラム世界の支配者へと変貌を遂げた、まさに英雄譚とも言えるでしょう。

生い立ちと初期の活動

トゥグリル・ベクは、テュルク系遊牧民の族長セルジュークの孫として生まれました。父はミーカーイール、兄にはチャグリー・ベクがいます。父の戦死後、トゥグリルは兄と共にセルジューク集団を率い、その卓越した知略と勇猛さから族長の地位を継承しました。この集団は、後にセルジューク族と呼ばれるようになります。

1025年、伯父アルスラーン・イスラーイールがガズナ朝に捕らえられたことを機に、トゥグリルはガズナ朝との対決姿勢を強めます。1030年のガズナ朝の混乱に乗じて、トゥグリルは兄チャグリーと共に伯父の救出と勢力拡大を目指し、ガズナ朝への出征を繰り返しました。

セルジューク朝の建国

1038年、トゥグリルはニーシャープールの戦いでガズナ朝に大勝し、同地を支配下に置きました。これを機に、セルジューク朝を建国し、初代スルターンとして即位します。1040年にはダンダーナカーンの戦いでガズナ朝軍を駆逐し、アフガニスタンまで領土を拡大しました。さらに、ホラーサーン地方も支配下に加え、着々と国家の基盤を固めていきました。

スルタンの称号と権威の確立

国家基盤を築いた後、トゥグリルは内政に力を注ぎました。1055年には、バグダードに入城し、アッバース朝のカリフ・カーイムからスルターンの称号を授与されました。この称号は、単なる世俗的な支配者以上の意味を持ち、イスラム世界の政治的権威をトゥグリルに与えるものでした。

カリフから授与されたラカブ（尊称）は、「スルターン、宗教の柱、（神の）探求者の父、トゥグリル・ベク・ムハンマド、信徒たちの司令者（アミール・アル＝ムウミニーン）の右手」というものでした。この称号は、トゥグリル・ベクがイスラム世界の守護者としての役割を担うことを示すものであり、以降のイスラム世界における称号のあり方に大きな影響を与えました。

領土拡大と支配

トゥグリル・ベクは、ブワイフ朝やシーア派勢力を倒し、小アジアからトルキスタンにかけての広大な地域を支配下に置きました。東ローマ帝国との交戦も行い、アッバース朝のカリフの後見人としてイスラム世界の権威を掌握しました。彼の治世下で、セルジューク朝は最盛期を迎え、その勢力は頂点に達しました。

死と後継者

1063年、トゥグリル・ベクは73歳でその生涯を閉じました。彼の死後、甥のアルプ・アルスラーンが後を継ぎ、セルジューク朝のさらなる発展を担いました。

トゥグリル・ベクの名前「トゥグリル」は鷹を意味し、「ベク（ベイ）」は君主を意味します。その名の通り、「鷹の君主」と称されるにふさわしい統治能力と武勇を兼ね備えた、まさに傑物でした。

スルタン称号の意味

セルジューク朝時代の貨幣研究によると、トゥグリル・ベクの銘文を持つディーナール金貨は、1041年から1063年までに鋳造されていました。興味深いことに、「スルターン」の称号は、1046年頃から確認されています。初期には「アル＝スルターン・アル＝ムアッザム（偉大なる支配者）」という形で現れ、その後は「ムアッザム/アアザム：偉大な」という単語と常に併記されました。これは、トゥグリル・ベクの権威を強調するためのものであったと考えられます。また、「シャーハンシャー」という言葉も併記されていたことから、彼の権威は非常に大きかったことがうかがえます。

バグダード入城とカリフの承認

13世紀の歴史家イブン・アル＝アスィールによると、1054年にトゥグリル・ベクがバグダードへ入城した際、カリフ・カーイムは彼の名前でフトバを唱えさせました。これは、カリフがトゥグリル・ベクの支配を公に認めたことを意味します。

別の歴史家バル・ヘブラエウスによると、1042年にトゥグリルがイスファハーンの住民を投獄した際、カリフ・カーイムは融和政策をとり、「ルクヌッディーン・スルターン・トゥグリル・ベク」という称号を贈りました。これは、カリフがトゥグリル・ベクの力を認め、彼の行動を抑制しようとしたことを示唆しています。

「1055年に『スルターン』の称号を授与された」という説が一般的ですが、上記の史料からは、トゥグリル・ベクがスルタンの称号を段階的に獲得していったことがわかります。

まとめ

トゥグリル・ベクは、遊牧民から身を起こし、セルジューク朝を建国し、イスラム世界の権威を確立した偉大な統治者です。彼の生涯は、その卓越した統治能力と武勇によって、セルジューク朝を一大帝国へと発展させた、まさに歴史に残る人物と言えるでしょう。

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