SWAN彗星 (P/2005 T4)

SWAN彗星 (P/2005 T4)

SWAN彗星（P/2005 T4）は、太陽観測衛星SOHOに搭載された太陽風観測装置「SWAN (Solar Wind Anisotropies)」によって発見された周期彗星です。SOHOは数多くの彗星を発見しており、一般には「SOHO彗星」と呼ばれますが、特にこのSWAN装置が検出したものはSWAN彗星として区別されることがあります。P/2005 T4は、2005年10月14日にSWAN装置の観測データからその存在が確認されました。

特徴的な軌道

仮符号に「P」が付与されている通り、P/2005 T4は既知のSWAN彗星の中で唯一の周期彗星であることが判明しています。しかし、発見後のわずか17日間にわたる計30回の観測データしか得られていないため、その軌道要素には大きな不確定性が伴います。

推定される公転周期は約28.4年ですが、その値には0.7年もの誤差が含まれており、将来の正確な回帰予測は困難です。一方で、近日点距離は比較的精度よく求められており、太陽から約9715万km（0.6494天文単位）と、水星と金星の軌道の間に位置しています。離心率は約0.93と非常に大きく、遠日点では太陽からおよそ27億km（18天文単位）まで遠ざかり、これは天王星軌道のすぐ内側付近に達する計算になります。

また、P/2005 T4は約160度という極めて大きな軌道傾斜角を持つ、いわゆる逆行軌道を描いています。これは、太陽系の多くの惑星や小惑星とは逆方向に太陽の周りを公転していることを意味します。ただし、黄道面（地球を含む惑星の軌道面）から見た軌道の傾きは約20度であり、他の多くの彗星と比べると比較的穏やかな傾斜と言えます。

地球への接近と高速記録

P/2005 T4は、地球軌道に約2353万km（0.1573天文単位）まで接近する可能性がある軌道を持つため、「地球近傍天体」に分類されます。特に彗星であることから、「地球近傍彗星（NEC）」と呼ばれます。

逆行軌道のため、この彗星が地球に接近する際には、地球と相対して動くことになり、結果として非常に大きな相対速度が生じます。2005年の発見に先立つ9月30日には、地球から約4965万km（0.3319天文単位）の距離を通過しました。この時の地球に対する相対速度は秒速78.51kmに達し、これは観測史上、彗星としては最も速い記録です。

既知の全天体の中には、これより高速で地球に接近する天体も存在しますが、その多くは小惑星(343158)マルシュアースのグループに属します。P/2005 T4の記録は、マルシュアースの最も速い接近速度に次ぐものであり、マルシュアースが上位の記録を複数保持していることを考慮すると、既知の天体全体としては実質的に6番目に速い接近速度と言えます。

このように、P/2005 T4はSWAN装置による唯一の周期彗星であること、そして地球への接近時に驚異的な速度を記録したことで、天文学的に興味深い天体の一つとして知られています。

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