T-5 (練習機)

海上自衛隊練習機 T-5

T-5は、海上自衛隊が運用する練習機です。固定翼機、ヘリコプターを問わず、全てのパイロットと戦術航空士の初等訓練に使用されています。この機体は、老朽化したKM-2の後継機として採用され、富士重工業（現SUBARU）によって製造されました。

導入経緯

KM-2の老朽化とレシプロエンジンの陳腐化に対応するため、後継機が求められました。富士重工業は、この要求に応えるべく、ターボプロップエンジンを搭載し、主翼や尾翼の形状を大幅に変更したKM-2D（JA8222）を独自に製作しました。KM-2Dは1984年6月28日に初飛行し、次期練習機のためのデータ収集が行われました。

防衛庁はKM-2Dの採用を決定し、同時にモックアップ審査も実施。コックピットを4座席キャノピー型に変更し、居住性向上と装備の近代化を図りました。KM-2改と仮称された機体は、1985年から調達が開始され、初号機は1987年4月27日に初飛行、同年8月に海上自衛隊に納入され、T-5として制式採用されました。1989年から1999年までに36機が納入されました。第201教育航空隊（小月航空基地）には、1989年3月22日に初配備されました。

老朽化により機数が減少したため、2006年から不足分の再調達が開始され、2008年3月27日に1機（37号機）が納入されました。2007年度と2008年度の予算では、それぞれ4機が認められ、2008年度と2009年度に引き渡されました。2009年度予算では5機、2010年度予算では4機が認められ、2009年度と2010年度に引き渡されました。2011年度予算では5機、2012年度予算では4機、2013年度予算では3機が認められました。

訓練課程の変更により、練習用ヘリコプターTH-135が導入されたため、T-5は30機体制に移行しました。

海上自衛隊は、2024年度から2034年度にかけてT-5を30機再々調達し、初等練習機の更新を行うことを決定しました。

一方、航空自衛隊では、2023年度までにT-7の後継機を検討する予定でしたが、2024年度にT-6 テキサンIIを選定しました。

機体

T-5は、機首にエンジンとプロペラを搭載し、主翼は上反角がついた直線翼で低翼配置となっています。座席は前後並列配置で、最大4名の搭乗が可能です。航空自衛隊では戦闘機パイロットの養成を重視し座席をタンデム配置としていますが、海上自衛隊では大型の固定翼哨戒機とヘリコプターを主力としているため、座席はサイド・バイ・サイド配置となっています。操縦桿は8の字を横倒しにした両手持ちタイプです。

小型機であるため衝突防止灯の装備義務はありませんが、編隊飛行訓練のため、白色のフラッシュライトが装備されています。失速警報装置は、電源不要のストール・ストリップ式です。

ジェット機との燃料統一のため、初等練習機では主流のレシプロエンジンではなく、ロールス・ロイス製のターボプロップエンジン250-B17Dを採用しました。訓練生にはパワーが強すぎるため、運用時にはリミッターがかけられています。副次的な効果として騒音が低下しました。主翼形状の変更や尾翼の後退翼化など、改修箇所は多岐にわたります。特に視界を重視した5分割の大型バブルキャノピーと白色の機体により、外観はKM-2から大きく変化しました。キャノピーはT-3で採用された後方にスライドするタイプとなり、乗降ドアは廃止されました。T-7と同じく射出座席ではないため、自力で脱出できるようにキャノピーの開閉は動力アシスト機能があります。

製造再開後の機体は、一部の計器や航法機器がアナログからLCDに変更された近代化仕様です。富士重工がシンボルマークを変更したため、操縦桿の中央にあるマークが従来の「フ」から六連星に変更されました。

海上自衛隊では唯一、曲技飛行が可能な機体であるため、教官による曲技飛行チーム「ホワイトアローズ」でも使用されています。

航空自衛隊が後に導入したT-7は、250-B17Dの出力増加型である250-B17Fを採用しており、エンジンの本格的な修理は共にMHIエアロエンジンサービスが請け負っています。また、T-7で導入された民生品活用によるコスト削減がT-5でも後に導入されるなど、両機は密接な関係にあります。

操縦経験がある岡崎拓生（第201教育航空隊司令）によれば、KM-2と比較し操縦しやすいため簡単すぎて教育に向かないという意見もあったそうですが、出力のコントロールがシビアなため、編隊飛行ではスロットルを素早く大きく動かす必要があるそうです。また、初期に生産された機体は、降着装置の状態を指示する回路が接触不良を起こしやすく、安全のため訓練を中断して帰投することが珍しくなかったため、1996年ごろには臨時帰投の緊急放送でも基地の隊員は慌てなくなったと言います。

シミュレータ

フライトシミュレータも導入されており、小月航空基地の「スウェルフェスタ」において体験搭乗が行われています。

配備基地

小月航空基地：小月教育航空群 - 第201教育航空隊。
訓練時のコールサインは「ルーキー」＋2ケタの数字です。

事故

1996年12月8日：教官1名・練習生2名を乗せた6313号機が小月航空基地で胴体着陸。けが人なし。降着装置を下ろす際に右側が途中で止まり、復旧しなかったため、通常の手順を外れ全て格納、教官（伊戸秀信3等海佐）の操縦により胴体着陸を行いました。見事な着陸だったため見守っていた隊員から拍手が起こったとのことです。プロペラは着陸時に逆Y字となったため破損がなく、擦った胴体下面を修理して数日後に復帰しました。
2001年9月14日：教官1名・練習生2名を乗せた6331号機が下関市高畑の霊鷲山に墜落。教官1名と練習生1名が死亡、1名は顔面骨折など重傷を負いました。
2007年2月13日：試験飛行中にエンジンの出力制御が不能となり緊急着陸。乗員2名に怪我なし。離陸後にエンジンの出力が下がらなかったため飛行を続けて燃料を消費した後、エンジンを切った状態で着陸しました。
2007年5月28日：訓練飛行中に部品が脱落し行方不明。6月4日定期検査で1機の右翼のフラップ内部を確認する点検口の蓋が無くなっているのが発覚。5月28日に行われたタッチアンドゴー訓練中に固定していたネジが外れたとみられています。

スペック

乗員：1名-4名
全長：8.44m
全幅：10.04m
全高：2.96m
最大離陸重量：1,805kg
エンジン：ロールス・ロイス・アリソン 250-B17D ターボプロップエンジン 1基
出力：350軸馬力（shp）に制限（本来は420shp）
最大速度：357km/h=M0.29（193kt）
航続距離：945km
実用上昇限度：7,620m

脚注

資料

岡崎拓生『翔べ海上自衛隊航空学生―パイロット人生38年の航跡』光人社、2011年。ISBN 978-4769827115

関連項目

T-34
LM-1
KM-2
T-3
T-5
T-7
日本製[[航空機の一覧]]
ホワイトアローズ
海上自衛隊の装備品一覧

外部リンク

T-5 固定翼機

もう一度検索