TDK D

TDK D：時代を彩ったカセットテープの進化

TDK Dは、1972年9月から1986年1月までTDK（当時は東京電気化学工業）が販売していた、ノーマルポジション（IEC TYPE I）用コンパクトカセットテープの名称です。この製品は、当時の音楽録音文化を支え、多くの人々に愛されました。

開発の背景と特徴

1972年、TDKはそれまで販売していた「TDK CASSETTE LOW NOISE（TDK LN）」の後継モデルとして、そして上位モデルである「SD（Super Dynamic）」の下位製品として、Dを開発しました。このテープは、標準ローノイズ（LN）級でありながら、SDで培われた技術を応用し、磁性体にガンマ・フェリック（D材）を採用しています。磁性体の超微粒子化により、従来のTDK LNと比較して感度が2dB向上しました。

さらに、新開発のコーティング技術と高精度なカセットハーフの採用により、ドロップアウトやワウ・フラッター（回転ムラ）を低減し、耐久性も向上しました。これにより、TDK Dは、従来のLN級カセットテープを大きく上回る性能を実現しました。

幾度かの改良を経て

TDK Dは、販売期間中に計3回の改良が行われました。1979年の全面改良では、磁性体が微粒子化したハイグレインド・フェリックに変更され、カセットハーフの設計も大幅に見直されました。新開発の「Reliable Cassette Mechanism（リライアブル・カセット・メカニズム）」や、上位製品（AD・SA・MA等）と同様のダブルクランプ機構、フリクションロスを低減する「Dimple & Bubble Sheet（ディンプル・アンド・バブル・シート）」が採用され、音質と耐久性がさらに向上しました。

また、初期モデルには、中期ロットと後期ロットが存在し、細かな仕様変更が行われています。中期ロットでは、価格表示の廃止や注意書きの変更が行われ、後期ロットでは、リーダーテープが無色透明からヘッドクリーニング効果のある乳白色に変更されました。

派生モデルとOEM

TDK Dの派生モデルとして、1984年には「DS（Dynamic Spirit）」が登場しました。これは、4代目Dをベースに、無色透明の高精度カセットハーフを採用したモデルです。

また、TDK Dは、多くの他社ブランドにもOEM供給されました。主な例として、松下電器産業（現パナソニック）の「National RT」「Technics LN」「National EN」、日本ビクター（現JVCケンウッド）の「VICTOR LN」、東芝の「TOSHIBA E」「TOSHIBA F」「TOSHIBA TD」「TOSHIBA FH」「BOMBEAT TS」「Aurex AF」、三菱電機の「DIATONE B」などが挙げられます。

サンリオキャラクターズとのコラボレーション

1977年と1985年には、サンリオキャラクターズとのコラボレーションモデルも発売されました。1977年版は初代Dをベースに、1985年版はDSをベースに、ハローキティやその他のキャラクターがあしらわれた特別なデザインでした。

CMキャラクター

TDK DのCMには、様々な著名人が起用されました。初代中期型には愛川欽也、初代後期型にはキャンディーズと榊原郁恵が出演し、1978年9月から1980年3月にかけては、榊原郁恵が2代目モデルのCMキャラクターを務めました。

TDK Dが残した足跡

TDK Dは、その優れた音質と耐久性、そして時代を彩るデザインで、多くの人々の音楽体験を豊かにしました。その存在は、カセットテープが音楽メディアとして最盛期を迎えた時代を象徴するものであり、現在でも多くのオーディオファンに愛されています。

参考文献
FUTABASHA SUPER MOOK 〜TDKカセットテープ・マニアックス〜
ONTOMO MOOK stereo編 カセットテープ完全アルバム 僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて

関連項目
TDK
TDK SD
TDK AE
TDK AD
CDing
コンパクトカセット
ノーマルポジション
Do it BANG BANG - 榊原郁恵の8枚目のシングルで、本人も出演した初代後期最終ロット仕様のDのCMソングとして起用された。

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