TDK SD

TDK SD カセットテープ：音楽録音の歴史を切り開いた名機

SD（スーパー・ダイナミック）は、かつてTDK（東京電気化学工業）が製造・販売していたノーマルポジション用コンパクトカセットテープ、およびオープンリールテープのブランド名です。特にコンパクトカセットテープとしてのSDは、その優れた音質から多くのオーディオファンに愛されました。

概要

1968年9月に北米市場で先行発売され、翌1969年3月に日本国内で販売が開始されたSDは、コンパクトカセット史上初のLH（Low Noise High-Output）級音楽録音専用テープとして登場しました。従来のテープに比べて磁性体を微粒子化することで、可聴周波数特性とダイナミックレンジを大幅に向上させました。当時のコンパクトカセットの周波数特性上限が概ね10kHz程度であったのに対し、SDは理論上20kHzまでの広帯域録音・再生を可能にしたのです。

さらに、このテープのために開発された独自のバインダーシステムや、テープ表面の鏡面化処理によって、ドロップアウトや変調ノイズ、高周波歪などの低減を実現しました。SDの登場は、それまで会議録音などの一般用途に限られていたコンパクトカセットを、本格的な音楽録音用媒体として認識させるきっかけとなりました。この成功を受けて、他社からも高性能・高音質な音楽専用テープが続々と開発・投入されるようになりました。

発売当初はプラケース入りの60分タイプのみでしたが、1970年にはプラケース入りの90分タイプと、廉価版の紙ケース入り60分タイプ（SD C-60F）が追加されました。1971年にはプラケース入りの120分タイプも登場し、ラインナップを拡充しました。

1972年には、一般録音用のLN（ロー・ノイズ）級カセットテープ「D」が発売されたのに伴い、SDは初の全面改良が行われました。そして1977年、後継製品であるAD（Acoustic Dynamic）にその役割を譲り、SDの製造・販売は終了しました。

ラインナップ

初代

SD C-60
SD C-60F（紙ケース入り）
SD C-90
SD C-120

2代目

SD C-45
SD C-60
SD C-90
SD C-120

TDK SDを使用したOEM製品

多くのメーカーがTDK SDをOEM採用し、自社ブランドのテープとして販売しました。

松下電器産業（現・パナソニックホールディングス）：Technics SG（RT-SG）
日本ビクター（現・JVCケンウッド）：VICTOR SH、VICTOR SF
東芝（現・東芝エルイートレーディング）：TOSHIBA HE
ナカミチ：Nakamichi EX（初代）

これらの製品は、SDの高音質を異なるブランドで楽しむことができるようにしたものでした。

参考文献

『FUTABASHA SUPER MOOK 〜TDKカセットテープ・マニアックス〜』双葉社、2023年
『ONTOMO MOOK stereo編 カセットテープ完全アルバム 僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて』音楽之友社、2023年

関連項目

TDK
シンクロカセット
TDK D
TDK ED
TDK AD
TDK OD
TDK AE
コンパクトカセット
ノーマルポジション
アポロ11号 - 船内にTDK SDが持ち込まれたという逸話があります。

注釈

外部リンク

懐かしのカセットテープ博物館 | TDK SD（初代前期版）
懐かしのカセットテープ博物館 | TDK SD（初代後期版）
* 懐かしのカセットテープ博物館 | TDK SD（ストライプパッケージ〈2代目〉）



SDは、その高い性能と音質で、コンパクトカセットの可能性を大きく広げた画期的な製品でした。このテープの登場は、音楽録音の歴史における重要な転換点と言えるでしょう。

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