TOI-2180 b

巨大ガス惑星 TOI-2180 b

TOI-2180 bは、地球から見てりゅう座の方向へ約380光年離れた位置にある恒星TOI-2180（HD 238894としても知られる）の周囲を周回する巨大な太陽系外惑星です。この恒星はスペクトル分類がG型に属します。この惑星は、NASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSの観測データから発見され、2022年9月時点において、TESSが見出した惑星の中では最も長い公転周期を持つことで特筆されます。その公転周期は約260.16日です。

発見の経緯

TOI-2180 bの存在は、2019年12月12日から13日にかけてTESSが観測した一度のトランジット（恒星の手前を通過する現象）によって、まず系外惑星候補として捉えられました。この候補の特定には、「Visual Survey Group」という名称の市民科学者グループが大きく貢献しました。このグループには、元アメリカ海軍士官のトーマス・リー・ジェイコブス氏も名を連ねており、彼らは「lcTools」という光度曲線を解析するツールを用いて観測データの中から惑星候補を探し出しました。2020年5月には、別の市民科学プロジェクトである「プラネットハンターズ: TESS」がこの候補を「Community TESS Object of Interest（CTOI）」として発表し、その後まもなく正式な「TOI」へと昇格しました。

TESS-Keck Surveyによる共同研究では、自動惑星検出望遠鏡（Automated Planet Finder）とケックI望遠鏡を用いた約2年間にわたるドップラー分光法による追跡観測が行われました。この精密な観測によって、最初にTESSが検出した一度のトランジットが、実際には長い公転周期を持つ惑星によるものであることが確定しました。

軌道の特徴

TOI-2180 bの公転周期は260.16日と比較的長いため、恒星面を通過するトランジット現象は約24時間にも及びます。惑星の軌道長半径は太陽と地球の間の距離に似ていますが、この惑星の軌道は主星のハビタブルゾーン（生命居住可能領域）の内側、つまりより高温な領域に位置しています。軌道の形状は円形ではなく、0.37という比較的高い軌道離心率を持っています。また、ドップラー分光法による観測データは、この惑星系内にさらに外側を公転する別の惑星、あるいは低質量の伴星が存在する可能性も示唆しています。

発見後、2回目のトランジットは地上からの観測では検出されず、3回目のトランジットは観測が行われませんでした。しかし、2022年1月31日から2月1日にかけて4回目のトランジットが観測されたことで、公転周期のデータ精度が向上しました。次のトランジットは、予測によれば2022年10月18日21時28分（協定世界時UTC）に発生する予定でした。

物理的な性質

TOI-2180 bは、そのサイズが木星とほぼ同じくらいであるにもかかわらず、質量は木星の約2.8倍に達する、密度が高めの巨大ガス惑星です。推定される表面温度は約348K（摂氏約75℃）であり、これまでに見つかっている多くの巨大系外惑星がより高温であるのと比較すると、木星の約165Kに近い、比較的低温な部類に入ります。TOI-2180 bは、ケプラー167eやWD 1856+534 b、ケプラー1704bなど、発見例がまだ少ない、トランジットを起こすことが観測される温度が400K未満の低温な木星型惑星の一つとして分類されます。その主星TOI-2180は視等級が9.16と比較的明るく、これらの低温トランジット木星型惑星の中で最も明るい恒星を巡っています。

また、この惑星は、主星と比較して金属元素が豊富に存在している可能性が高いと推測されています。発見チームの分析では、TOI-2180 bの金属量は主星の約5倍と見積もられており、これは惑星の外層や内部に約100地球質量に相当する重元素が含まれていることを意味します。

主星 TOI-2180について

TOI-2180（HD 238894）は、太陽系から約380光年離れたG型星で、視等級は9.16と、小型の望遠鏡や双眼鏡を使えば観測可能な明るさを持っています。質量は太陽の約1.1倍、半径は太陽の約1.6倍です。推定年齢は約81億年と、太陽（約46億年）よりも進化が進んだ恒星であり、その進化段階の影響で半径がやや大きくなっています。

将来の観測への期待

TOI-2180 bは、表面重力が大きいことや、主星の半径が比較的大きいことから、透過分光法を用いて大気組成を詳細に分析するターゲットとしてはあまり適していません。主星が大きいことで、トランジットの深度（恒星の明るさの減少率）が約0.5%と比較的浅くなるためです。しかし、その特徴的な軌道や物理特性から、TOI-2180 bの周囲に存在する可能性のある環や太陽系外衛星を探したり、惑星がどのようにして現在の軌道に至ったか（惑星移動）の研究を進めたりするための格好の観測対象となることが期待されています。

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