TSUMUZI

TSUMUZI（ツムジ）

日本の作曲家、ヴァイオリニスト。本名は永代 祐司（ながよ ゆうじ）。医師免許を持つという異色の経歴を持つ理系ヴァイオリニストとして知られる。変拍子を多用する独自の音楽性から「5拍子の貴公子」「変拍子の貴公子」の異名を取り、唯一無二の世界観を構築している。2013年には自身のレーベルErnesto Cielo Records（エルネスト シエーロ レコーズ）を設立し、代表およびミュージシャンとして活動を展開している。

経歴

愛知県名古屋市で生誕。幼少期は父親の勤務地の関係で埼玉県内で過ごすが、6歳からは岐阜県岐阜市で育つ。3歳からヴァイオリン、4歳からピアノを始めたが、中学時代はサッカーに熱中するスポーツ少年だった。愛知県内の進学校、滝高校在学中の16歳の頃、同級生の作曲した曲に触発され、自身もピアノに向かったところ自然にメロディーが生まれ、作曲に開眼。以来、作詞・作曲活動に深く傾倒していく。高校3年生になり、音楽の道へ進みたいという希望を初めて母親に伝えるも、医師になってほしいという思いから猛反対を受ける。深く悩んだ末、東京の医学部への進学を決意し、上京すれば音楽活動の道も開けるだろうと考え、受験勉強を開始した。東京医科歯科大学医学部医学科に合格し上京後、大学卒業までの間、音楽活動と学業の二重生活を送ることになる。21歳頃、当時暮らしていた文京区湯島から近かった東京芸術大学内のサークルの集まりに参加したことを機に、幼少から親しんだヴァイオリンを用い、クラシックにとらわれない自身の音楽を創り出すことを決意。革命家であり医師でもあったエルネスト・チェ・ゲバラにちなみ、ERNESTO CIELO（エルネスト・シエーロ）というバンドを結成し、活動を開始した。この時期から年長のサポートミュージシャンたちとの交流を深め、共演を通じて音楽的な幅を広げていった。20代半ばには、変拍子のオリジナル曲「Devilish Waltz of A Soul」の作曲を通してその可能性を認識し、以降、自身の音楽の最も重要な個性として磨き上げている。2010年に大学を卒業し、医師国家試験に合格しドクターライセンスを取得したが、研修医には進まず音楽活動に専念する道を選んだ。しかし、長年の二重生活による負担がたたり、直後から腕にしびれを感じるようになり、約3年間にわたり演奏活動の休止を余儀なくされた。2013年6月9日、ファーストアルバム「Devilish Waltz of A Soul 〜 二月二十六日のタンゴ」を自主制作でリリース。このアルバムがインディーズレーベル大手であるウルトラ・ヴァイヴの注目を集め、同年9月18日に全国デビューを果たした。ライブでは主にヴァイオリン、ピアノ、ギター、ベース、ドラムという編成で演奏活動を行っている。近年では、2021年4月に岐阜県関市の「モネの池」イメージソング『A Pond of Wonder 〜モネの池のテーマ〜』を作曲し、関市役所で尾関健治市長に生演奏を披露した。この楽曲は5thアルバムに収録されている。2022年3月には単身スペインツアーを実施し、コルーニャでの初海外公演を成功させた。同年9月には二度目のスペインツアーを行い、コルーニャとマドリードでの公演を実現した。2023年10月、東京・赤坂のサントリーホールにてデビュー10周年記念コンサートを開催し、好評を博した。2024年10月には3度目のスペインツアーとして、バルセロナとコルーニャで公演を行った。

音楽性

変拍子と独自の理論

「5拍子の貴公子」「変拍子の貴公子」という異名が示す通り、5拍子を中心に変拍子をふんだんに取り入れた楽曲を数多く発表している。TSUMUZI自身は5拍子を説明する際、八の字を描くように手を動かし、片側が3拍、もう片側が2拍で円を描くさまを示し、この速度の異なる円運動が5拍子のリズム的本質であると解説している。この考え方は奇数拍子全てに当てはまるとし、変拍子の本質を〈リズムの非対称性〉と定義している。さらに『ゲルニカの掟』など多くの楽曲では、小節ごとに拍子を変化させる高度なアレンジを取り入れている。これは、拍子を3拍子、2拍子といった最小単位に分解し、メロディーのニュアンスに合わせて自由に再構築するという独自の技法に基づいており、これを〈音楽におけるキュビズム〉と提唱している。『最果てのソレア』など多くの楽曲でフラメンコのパルマ（手拍子）が取り入れられているのは、拍子を3と2に分割・再構築する自身の作曲手法が、フラメンコのコンパスの考え方と親和性が高いためとしている。

新・夜多羅拍子 (Neo Yatara Rhythm)

2020年頃、雅楽に古くから夜多羅拍子と呼ばれる5拍子が存在することを知り、代表曲『抜頭』を聴いたことに着想を得た。自身がそれまで用いてきた3と2の組み合わせの5拍子とは逆の、2と3の組み合わせで構成される雅楽の夜多羅拍子を、現代的なチルアウトなグルーヴとして蘇らせた5拍子のリズム「Neo Yatara Rhythm」を考案した。5thアルバム収録の『やたら拍子落書』（Yatara Rhythm Graffiti）はこのリズムを用いて制作された作品である。

作品

これまでに6枚のオリジナルアルバムをリリースしており、CD作品ではヴァイオリン、ピアノ、ギター、ベース、ドラムという基本編成に加え、アコーディオン、ヴィブラフォン、スチールパン、ホーンセクションなど多様な楽器を取り入れている。また、尺八、箏、琵琶といった和楽器や、ダラブッカ、トンバックなどのアラブ楽器との録音も多い。各アルバムには様々な文化や出来事、芸術作品からインスピレーションを受けた楽曲が収録されている。

1st Album『Devilish Waltz of A Soul〜二月二十六日のタンゴ』: 収録曲『二月二十六日のタンゴ』（The Tango of February 26th）は二・二六事件から着想を得ている。
2nd Album『ゲルニカの掟 〜 最果てのソレア』: 収録曲『ゲルニカの掟』(Guernica Dogma)はパブロ・ピカソの絵画「ゲルニカ」に着想を得て、自身の提唱する「音楽的キュビズム」の手法で作曲された。
3rd Album『俺のリベルタンゴ 〜 情熱の五大陸』: 「なごり雪」「傘がない」「僕が僕であるために」「情熱大陸」「リベルタンゴ」などの著名な楽曲を、すべて5拍子または変拍子でカバーしたアルバム。特に『俺のリベルタンゴ』のミュージックビデオは国内外で評価が高く、世界各国のApple Musicジャズチャートでしばしば1位にランクインしている。
4th Album『JAPON NEO SOUL 2O2O 〜 来たる災害のためのレクイエム』: 収録曲『JAPON NEO SOUL 2O2O (ジャポネオ・ソウル・トゥエンティー・トゥエンティー)』は葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」に着想を得ており、5拍子の波の音で始まる楽曲。2020年の東京オリンピックを見据えて作曲された。
5th Album『5拍子の教典』: レイチェル・カーソンの著書『沈黙の春』（Silent Spring）から着想を得た楽曲『沈黙の春のソネット』（Sonnet for Silent Spring）、日本の雅楽の夜多羅拍子に着想を得た『やたら拍子落書』（Yatara Rhythm Graffiti）などが収録されている。
6th Album『辺境の5拍子』: サラサーテ作曲のヴァイオリン曲『ツィゴイネルワイゼン』を5拍子に大胆にアレンジして収録。埼玉県飯能市に本店を構えるレストラン「CARVAAN(カールヴァーン)」の依頼で作曲されたイメージソング『CARVAAN 〜砂塵の彼方へ〜』も収められている。

アルバムリスト

Devilish Waltz of A Soul〜二月二十六日のタンゴ（2013年）
ゲルニカの掟 〜 最果てのソレア（2015年）
俺のリベルタンゴ 〜 情熱の五大陸（2017年）
JAPON NEO SOUL 2O2O 〜 来たる災害のためのレクイエム（2019年）
5拍子の教典（2022年）
辺境の5拍子（2023年）

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