TeXの拡張機能一覧

TeXの拡張機能

TeXは、コンピュータを用いた高品質な組版を実現するために開発されたシステムです。その優れた組版能力は、特に数式や図表を多く含む学術文書や専門書で高く評価されています。しかし、オリジナルのTeXシステム（Plain TeX）はコマンドが低レベルで、文書作成には煩雑な記述が必要となる場合が多くあります。この問題を解決し、TeXの機能を特定の目的に合わせて拡張するために、様々なマクロ体系、処理系、そして専門分野に特化したパッケージが開発されてきました。これらの拡張機能は、TeXをより使いやすく、より幅広い用途に適用可能にしています。

本稿では、TeXエコシステムを構成する主要な拡張機能について、その種類と役割を概観します。

主要なマクロ体系

TeXの複雑なコマンドをより抽象化し、文書の論理構造に基づいて記述できるようにしたものがマクロ体系です。これにより、ユーザーは見た目の整形よりも内容の記述に集中できます。

LaTeX: 現在最も広く利用されているTeXのマクロ体系です。章、節、箇条書き、図表、数式などの構造を簡単に記述でき、統一性のあるレイアウトを容易に実現できます。豊富な追加パッケージによって機能拡張も可能です。
ConTeXt: LaTeXとは異なる設計思想に基づいたマクロ体系で、特に構造化文書や複雑なレイアウト、多言語対応に強みを持っています。
Texinfo: プログラムのドキュメント作成などに用いられるシステムで、単一のソースファイルから印刷用のTeX出力とオンラインヘルプ（Info形式）などを生成できます。
PSTricks: PostScriptの機能をTeXから利用するためのマクロ集です。複雑な図形描画やグラフ作成に用いられます。

TeX処理系（エンジン）

TeX処理系は、ユーザーが記述したTeXソースファイルを解釈し、DVIやPDFなどの出力ファイルを生成するプログラムです。オリジナルのTeXエンジンから派生し、新しい機能や技術を取り入れたものが開発されています。

pdfTeX: TeXの機能を拡張し、DVIファイルを経由せずに直接PDFファイルを生成できる処理系です。PDF特有の機能（ハイパーリンク、埋め込みフォントなど）を簡単に利用できます。
LuaTeX: スクリプト言語Luaを組み込んだ新しい処理系です。Luaスクリプトを用いてTeXの内部動作を制御したり、高度な処理を行ったりすることが可能になり、非常に柔軟性の高い組版システムを構築できます。OpenTypeフォントへの対応なども特徴です。
XeTeX: Unicodeに完全対応し、オペレーティングシステムにインストールされているフォント（システムフォント）を直接利用できる処理系です。多言語文書の作成や、特定のデザインフォントを使用する際に便利です。
Plain TeX: ドナルド・クヌースによって開発されたオリジナルのTeXシステムに比較的近い、基本的なマクロセットを備えた処理系です。
Publishing TeX: 特定の出版ワークフローなどに特化した派生処理系です。

特定分野向けの拡張機能（パッケージ）

LaTeXなどのマクロ体系上で動作し、特定の専門分野での文書作成を効率化・高度化するためのパッケージが多数開発されています。

学術系の拡張機能

AmS-LaTeX: アメリカ数学会（AMS）によって開発された、数学論文や書籍の組版に特化したパッケージ群です。複雑な数式や記号、定理環境などを美しく組版するための機能を提供します。
BibTeX: 参考文献リストの作成と管理を自動化するシステムです。文献情報をデータベース化しておき、文書中で引用するだけで、指定したスタイルに従った参考文献リストが自動的に生成されます。
PGF/TikZ: 高機能なベクターグラフィック描画パッケージです。TeXのコードを使って、座標指定やパス定義などにより、複雑な図やグラフ、イラストなどを直接描画できます。
mhchem, XϒMTeX: 化学構造式や反応式を記述するためのパッケージです。複雑な化学式をTeXのコードで簡単に表現できます。

語学系の拡張機能

ArabTeX: アラビア文字を含む文書の組版に対応します。
FarsiTeX: ペルシャ文字（ファルシー語）の組版に対応します。
MonTeX: モンゴル語の組版に対応します。
MTeX: 中国語（簡体字）の組版に対応します。
Tiqwah: ヘブライ語の組版に対応します。

これらのパッケージは、各言語の文字セット、記述方向（右横書きなど）、特殊な組版規則に対応するために開発されています。

音楽系の拡張機能

MusiXTeX: 楽譜をTeXで組版するためのパッケージです。音符、休符、拍子記号、調号などを記述して、プロフェッショナルな楽譜を生成できます。
TIPA: 国際音声記号（IPA）をTeX文書中に挿入するためのパッケージです。

参考文献

ここで述べたTeXやLaTeXの具体的な利用法については、多くの優れた入門書や解説書が出版されています。

奥村晴彦, 黒木裕介. 『[改訂第7版] LATEX2ε 美文書作成入門』. 技術評論社.
吉永 徹美. 『LaTeX2ε辞典 増補改訂版』. 翔泳社, 2018年8月.
小林 雅人. 『LaTeX快適タイピング』. 工学社, 2016年3月.
土屋勝. 『LaTeXはじめの一歩―Windows 8/7 対応』. カットシステム, 2013年5月.
藤田眞作. 『pLaTeX2e入門・縦横文書術』. ピァソン・エデュケーション, 2000.
藤田眞作. 『続LaTeX2e階梯・縦組編』. アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン, 1998.

関連項目

* CTAN (Comprehensive TeX Archive Network): TeXシステム本体、LaTeX、様々なパッケージ、関連ツールなどが集められている世界的なアーカイブネットワークです。TeXの拡張機能の多くはここから入手できます。

TeXの拡張機能は非常に多岐にわたります。これらを活用することで、シンプルなレポートから複雑な数式を含む論文、多言語対応の書籍、美しい図や楽譜まで、様々な種類の高品質な文書を効率的に作成することが可能に作成することが可能にしています。TeXで作成することが可能にします。

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