Tommy (レフェリー)

1966年11月10日生まれ、本名・柳下まさみことTommy（トミー）は、日本のプロレス界において異色の経歴を持つ人物である。元女子プロレスラーとしてキャリアをスタートさせたが、後にプロレスリングの審判であるレフェリーとして、四半世紀以上にわたり第一線で活動を続けている。そのキャリアは、数々の女子プロレス団体を渡り歩きながら、卓越した判断力と的確なマット裁きで多くの名勝負を支えてきた軌跡そのものである。

選手からレフェリーへ

1982年、全日本女子プロレスの門を叩いたTommyは、その高い志とは裏腹に体格的な課題に直面し、同期の中野恵子（後のブル中野）らから一年遅れて1983年に「昭和58年組」として正式に入団した。同年9月23日、埼玉県戸田市スポーツセンターで開催された大会で、中野恵子を相手とした変則タッグマッチ（パートナーは小松美加）でプロレスラーとしてのデビューを飾る。しかし、プロレスラーとしての道を究めるには至らず、このデビュー戦を機に選手としての活動に見切りをつけ、新たな道へと進むことを決意する。

選手としての挫折を乗り越え、Tommyが選んだ次のステージは、リング上の秩序を守るレフェリーだった。プロレス界のベテラン審判である和田京平氏の指導を仰ぎ、レフェリーとしての基礎を徹底的に学んだ彼女は、同年10月1日には岡山県和気町大会で早くもレフェリーデビューを果たす。ここから、プロレスラー時代とは比較にならないほど長い、レフェリーとしてのキャリアが幕を開けたのである。

キャリアの変遷と卓越した手腕

全日本女子プロレスでレフェリーとしての経験を積んだTommyは、1989年に同団体を退団し、新たな活躍の場を求めた。この時期、彼女は「トミー蘭」というレフェリーネームを使用し、ジャパン女子プロレスで裁きを務めた。ジャパン女子プロレスが活動を停止した後も、彼女のキャリアは途絶えることなく、旗揚げ間もないLLPW（レディース・レジェンド・プロレスリング）に参加。ここではメインレフェリーとして、団体の中心的な存在として活躍した。その後、特定の団体に所属せずフリーランスとなり、GAEA JAPAN、JDスター女子プロレス、NEO女子プロレスといった、当時の女子プロレス界を牽引する主要団体でもその手腕を発揮した。

Tommyのレフェリーとしての特筆すべき点は、その「卓越した判断力」と「マット裁き」にある。試合の流れを正確に読み取り、選手の動きやリング上の状況に応じて迅速かつ的確な判断を下す能力は、多くの選手やファンから高い評価を得ている。これにより、試合の緊張感を維持しつつ、安全かつ公正な進行を実現している。この長年にわたる活動と安定したパフォーマンスにより、彼女は女性レフェリーとしては「現役最長記録」を更新し続けており、女子プロレス界における生ける伝説的存在となっている。

現在の活動とプロレスへの献身

現在、TommyはプロレスリングWAVEを主な活動拠点としながら、Marvelous、アクトレスガールズ、アイスリボン（特に後楽園ホールや地方大会）、REINA（ビッグマッチ）など、数多くの女子プロレス団体にフリーランスとして参加し、そのキャリアをさらに積み重ねている。2021年1月1日からは、プロレスリングWAVEおよびMarvelousに「兼任所属」という形で、より深く関わることになった。

レフェリー業に加え、地方遠征の際には選手バスの運転を担当するなど、運営面でも団体を支えている。プロレスのリングを離れた場所でも、Tommyはその多才ぶりを発揮しており、東京都品川区の下神明駅近くでは、自身が経営する飲食店を営んでおり、多くのファンや関係者が集まる場となっている。また、自身のキャリアにおける節目となる年には、記念興行をプロデュースするなど、裏方としてもプロレス界に貢献している。さらに、かつて存在した女子プロレス団体アルシオンが使用していたリングキャンバスの一つを個人で所有しており、これが主にプロレスリングWAVEの興行で使用されているというエピソードも、彼女のプロレスへの深い愛情と関わりを示している。

プロレスラーとしての短いキャリアを経て、レフェリーとして女子プロレス界の歴史を長く見つめ続けてきたTommy。その冷静沈着なジャッジと、リング内外での幅広い活動は、多くの後進レフェリーや選手にとっての手本となっている。ベテラン審判として、またプロレスを愛する一個人として、彼女の存在は今後の女子プロレス界においても、ますます重要なものとなっていくであろう。

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