Tu-142 (航空機)

Tu-142

ソビエト連邦が開発した長距離対潜哨戒機、Tu-142について解説します。北大西洋条約機構（NATO）からは「ベアF（Bear F）」というコードネームで識別されました。この機体は、戦略爆撃機Tu-95を原型としており、広大な海洋での対潜水艦作戦を主要任務として設計されました。特徴的な二重反転プロペラを持つ4基の強力なターボプロップエンジンを主翼下に備え、原型機譲りの優れた飛行性能により、空中給油を行うことなく最大30時間もの長時間の飛行が可能となっています。

開発の背景

1950年代後半、アメリカ合衆国が射程の長い潜水艦発射弾道ミサイルを開発したことは、ソ連にとって深刻な懸念事項でした。これに対抗するため、ソビエト連邦海軍は、既存の対潜哨戒機Il-38では不十分であった長大な航続距離と哨戒能力を持つ新型機の開発を求めました。ツポレフ設計局はこれに応じ、大型機開発の経験を活かし、Tu-95の機体構造を基に新型対潜哨戒機の開発に着手したのです。

開発と生産

開発計画は1963年に開始され、試作初号機は1968年7月18日に初飛行しました。ソビエト連邦海軍による実用試験を経て、1972年からTu-142として部隊への配備が始まり、同年12月には初期作戦能力を獲得しました。生産は、まずクイビシェフ（現在のサマーラ）の第18工場で18機が行われた後、タガンログの第86工場へ移管され、1994年まで続けられました。

機体構造とアビオニクス

Tu-142は、Tu-95から受け継いだ基本設計に対潜哨戒任務のための改修を施しています。機体はコックピット後方で1.78メートル延長され、方向安定性向上のため方向舵も拡大されました。主翼はキャンバーが増加し、二重隙間式フラップが採用されるなど、揚力特性が改善されています。

アビオニクス面では、機体中央下部に大型レドームが追加され、洋上捜索レーダー（初期はベルクト95、後にコルシュンシリーズ）を搭載しました。潜水艦探知用のソノブイは機体後部に格納され、下面の投下扉から展開されます。

運用国

Tu-142は主にロシア連邦とインドで運用されました。

ロシア

ソビエト連邦崩壊後、ロシア海軍に運用が引き継がれ、現在も一部部隊で運用されています。ウクライナ独立領内に残された機体の一部は、第一次戦略兵器削減条約（START I）に基づき解体されました。

インド

インド海軍は1981年に長距離海洋哨戒機導入を検討し、Tu-142が候補となりました。運用基地の改修が必要となるため導入は難航しましたが、最終的に1984年12月に8機の新造機購入契約が締結されました。乗員訓練を経て、1988年に全機が引き渡され、第312飛行隊に配備されました。インド海軍では長年運用されましたが、2017年3月27日に全機が退役し、後継機はP-8Iネプチューンとなっています。

主な派生型

Tu-142には、基本的な哨戒型（ベアF）に加え、対潜能力向上型（ベアF Mod2/3/4、MK, MZ）、通信中継型（ベアJ）、情報収集・電子戦型（ベアG）、巡航ミサイル母機型（ベアH）、エンジン試験用（LL）など、様々な派生型が存在します。これらはレーダー、電子機器、武装、任務などが異なります。

性能諸元 (Tu-142M/MK)

全長: 49.60 m
全高: 12.12 m
翼幅: 53.20 m
翼面積: 289.9 m²
最大離陸重量: 185,000 kg
動力: クズネツォフ NK-12MV ターボプロップエンジン 4基 (各 11,000 kW)
最大速度: 855 km/h
巡航速度: 735 km/h
航続距離: 13,800 km
実用上昇限度: 11,000 m

武装

Tu-142は、対潜水艦・対艦艇任務向けに、空対艦ミサイル、航空魚雷、航空爆雷などの武装を搭載できます。

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