WISE J085510.83-071442.5

WISE 0855-0714：極低温の天体

WISE J085510.83-071442.5、通称WISE 0855-0714は、地球から約7.27光年（2.23パーセク）の距離に位置する天体です。広域赤外線探査衛星（WISE）の観測データから発見され、2014年4月にその存在が公表されました。この天体は、発見当時、既知の恒星や褐色矮星の中で、固有運動が3番目に大きく、年周視差が4番目に大きいという特徴を持っていました。これは、太陽系から4番目に近い天体であることを意味します。また、褐色矮星として観測された場合、既知の中で最も表面温度が低い天体である可能性も指摘されています。

発見の経緯

WISE 0855-0714は、2010年 5月4日のWISEの観測データで初めて検出されました。その後、2013年3月に初期報告がなされ、スピッツァー宇宙望遠鏡やジェミニ北望遠鏡による追観測が行われました。スピッツァーは2013年6月と2014年1月にこの天体を再検出しています。WISE J085510.83-071442.5という名称は、WISEによる初検出と天体の座標に由来し、うみへび座の方向にあることを示しています。

特徴

距離と固有運動

発見当初、WISE 0855-0714は年間の固有運動が8.1秒角で、バーナード星（10.3秒角）、カプタイン星（8.6秒角）に次ぐ3番目の大きさでした。また、年周視差も0.454秒角で4番目に大きく、この値から計算された距離は2.20パーセクでした。太陽系にこの天体よりも近い既知の星系は、ケンタウルス座α星系（1.338パーセク）、バーナード星（1.834パーセク）、WISE J104915.57-531906.1系（2.02パーセク）のみです。

その後、WISE 0855-0714の年周視差は449±8ミリ秒角に修正され、距離は約7.27±0.13光年（2.23±0.04パーセク）とされました。この天体の年周視差が大きく、誤差が小さいことから、距離の精度は非常に高いと考えられます。

WISE 0855-0714の固有運動は非常に大きく、その動きが直接観測されたことで、発見につながりました。固有運動は、天体の見かけ上の動きを表すため、太陽系との相対速度や距離に依存します。この天体のように固有運動が大きい天体は、太陽系に近いだけでなく、相対速度も大きく、その動きが視線方向よりも天球面に沿っていることを示唆しています。

スペクトル

WISE 0855-0714のスペクトルは、赤外線の複数の波長帯での明るさから、色やスペクトルエネルギー分布を調べることで解析されています。また、既知の距離から絶対等級も計算されています。中心波長4.5μmの波長帯で最も明るく、その見かけの等級は13.89±0.02です。波長が長くなるほど明るくなる傾向があります。

色と絶対等級から、WISE 0855-0714は既知のどの褐色矮星よりも赤く、低温であることが示唆されています。理論的な大気のモデルと観測結果の比較から、水（氷）を含む雲が存在する可能性が指摘されています。しかし、明るさの時間変化を調べた観測からは、雲の性質が他の褐色矮星と似ており、水の雲ではない可能性も示唆されています。

物理的特徴

褐色矮星の理論に基づくと、WISE 0855-0714の質量は木星の1.5倍から8倍、有効温度は250K程度と推定されています。国際天文学連合は、重水素の核融合が可能な木星質量の13倍以上の天体を褐色矮星に分類しており、それより質量が小さく、他の天体の周りを公転しているものは惑星と定義しています。WISE 0855-0714は、質量が褐色矮星の下限よりも小さく、単独で存在しているため、自由浮遊惑星である可能性も残されています。しかし、発見者グループは惑星質量の褐色矮星である可能性が高いと見ています。