NORMAL

一風堂の原点、『NORMAL』

『NORMAL』は、日本のロックバンド一風堂が1980年 3月21日にリリースしたデビューアルバムです。このアルバムは、バンドの創設者であり、ボーカルとギターを担当する土屋昌巳が全曲の作詞・作曲を手掛け、プロデュースも担当しました。テクノロジーと人間的なロックを融合させるというコンセプトのもと、ミュージックシーケンサーと生演奏を組み合わせた独特な音楽性が特徴です。

バンド結成の背景

一風堂のメンバーは、それぞれ異なる音楽的バックグラウンドを持っていました。見岳章と藤井章司は、ギタリスト鈴木茂のバックバンドで活動していたことから知り合い、その後、尾崎亜美の仕事にも携わっていました。一方、土屋昌巳は、りりィや大橋純子のバックバンドでプロとしてのキャリアを積んでいました。

土屋は、鈴木茂のバックバンドに参加した際に、バンドとしてのアイデアが湧き上がり、他のメンバーに声をかけて一風堂を結成しました。バンド名は、土屋がよく利用していた渋谷の雑貨店の名前から取られています。バンド結成後、一風堂は、EPIC・ソニーレコード所属の山本翔のバックバンドとして活動を開始し、その後、単独でメジャーデビューを果たすことになりました。

録音と制作

アルバムのレコーディングは1979年12月に開始されました。レコーディング中に、ベース担当が平田謙吾から赤尾敬文に交代するという出来事がありました。平田は、山本翔のバックバンドとしての活動を望んだため、脱退することになりました。このアルバムには、シンガーソングライターの遠藤賢司と歌手の中原理恵が参加しています。

土屋は、デビューシングル「もっとリアルに」の制作時点で、アルバム3枚分の構想を持っていました。彼は、アルバムのコンセプトに合わせて楽曲を制作し、コンセプトに合わない曲は採用しないという方針を持っていました。また、藤井は、パルス信号を聴きながらドラムスを演奏するバンドに興味を持ち、土屋にそれらの音源を聴かせました。見岳は、当時のアメリカンサウンド主流の音楽シーンに不満を感じており、一風堂への参加によって、シンセサイザーや現代音楽などの新たな音楽性を追求することができました。

音楽性

一風堂の音楽性の出発点は、ミュージックシーケンサーと人間によるビートをどのように同じ時間軸で展開させるかという点でした。土屋は、ドラムスなどの核となる部分はレッド・ツェッペリンのようにあるべきだと考え、キーボードもアンサンブルに不可欠であると考えていました。同時期に活動していたYMOが機械的なドラムスを使用していたのに対し、一風堂は人間的な生身のドラムスにこだわりました。土屋は、計算されたリズムとロックのグルーヴが融合できると信じ、有機的なビートの中でマシンの演奏も機能するという方向性で制作を進めました。

アルバムのコンセプトは、「テクノロジーと人間的なロックのキッチュな組み合わせ」であり、テクノポップを下地にしながらも、ベンチャーズやハードロックなどの要素を取り入れています。土屋は、自身の音楽的ルーツであるリズム・アンド・ブルースやハードロックの要素を封印し、新たな音楽性を追求しました。レゲエの要素を取り入れたのは、ボブ・マーリーなどの政治的なメッセージだけでなく、音楽的なムーブメントとしての魅力に惹かれたからです。また、バンド名の由来となった雑貨屋のように、様々な音楽を混ぜ合わせるという狙いも持っていました。

リリースとアートワーク

アルバムは、1980年 3月21日にEPIC・ソニーレコードからLPでリリースされました。LPの帯には「一風堂からの緊急呼び出し!!」というキャッチフレーズが記載されていました。デビューシングルである「もっとリアルに」は、このアルバムには未収録となっています。これは、土屋がビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のように、レコードメディアを使い分ける発想を好んだためです。

アルバムのジャケットは、リリース直前に差し替えられました。元々は、収録曲である「電気人形」のイメージで、メンバーの体に電気コードが巻き付けられた写真が使われる予定でした。2006年には、デジタルリマスター版として初めてCD化され、ボーナストラックが追加収録されました。その後、2013年には、紙ジャケットとBlu-spec CD2仕様で再リリースされています。

批評

音楽雑誌編集者の田中雄二は、一風堂のメンバーがスタジオミュージシャンとしての経験があったため、デビュー作であるにもかかわらず、非常に完成度の高い作品だと評価しました。また、ロビン・スコットなどのイギリスのミュージシャンが早い段階から一風堂を高く評価していたと指摘しています。一方で、当時のマスコミからは、ザ・プラネッツやピーター・ガブリエルからの影響が強いと批判されることもありました。これに対し田中は、レゲエにおける過去の引用はリスペクトであると擁護し、土屋は音楽を「記憶の芸術」であると捉え、「リスナーの持っている記憶をどう利用しようかという考え方がある」と述べています。田中は、収録曲である「ブレイクアウト・ジェネレーション」について、ディーヴォ風の変拍子を使用しながらも、演奏に余裕が感じられると述べています。

まとめ

『NORMAL』は、一風堂の音楽性の原点であり、テクノロジーと人間的なロックを融合させた意欲的な作品です。土屋昌巳の卓越した音楽センスと、メンバーの高い演奏能力が融合し、独自の音楽世界を創り上げています。このアルバムは、一風堂の音楽の核となる部分を理解する上で欠かせない作品と言えるでしょう。

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