VOLT

アルバム概要

「VOLT」（ヴォルト）は、日本のミュージシャン、吉井和哉によって2009年に発表された通算5枚目のソロオリジナルアルバムです。前作からおよそ1年半の間隔を置いてリリースされ、発売元はEMIミュージック・ジャパンでした。本作は、通常盤CDに加え、特典としてポスターとDVDが付属するデジパック仕様の初回限定盤、そしてアナログ盤も同時に発売されました。

制作背景とコンセプト

このアルバムは、吉井自身がその完成度に強い手応えを感じており、特に収録曲「フロリダ」の歌詞に「本当のロックが鳴っちゃたんだよ」と記すほど、自己評価の高い作品となりました。楽曲制作にあたっては、「名作を生み出さなければ」「何か新しいことに挑戦しなければ」といった気負いやプレッシャーを一度捨て、その時々の偽りのない、等身大の吉井和哉を表現することに重点が置かれました。ライブでの盛り上がりを意識した、シンプルながらも勢い溢れるサウンドを目指し、その瞬間のインスピレーションを大切にして一気に書き上げられた楽曲群が収録されています。

サウンド面では、前作『Hummingbird in Forest of America』でミキシングを担当したジョー・バレシを共同プロデューサーとして迎えました。彼の存在は、吉井が頭の中で描く音像を現実のものとする上で非常に大きな助けとなっただけでなく、吉井と対等な立場で意見を交わし、時に厳しいアドバイスを送るパートナーでもありました。例えば、楽曲「ONE DAY」のボーカルレコーディング時には、「この歌はスタジアムのような大きな会場ではなく、ライブハウスの熱気の中で歌うべきものだ」と具体的な方向性を示したり、可能な限りギターパートは吉井自身が演奏するよう促したりしたエピソードが残っています。

また、本作のレコーディングでは、サポートミュージシャンの起用方法にも変化が見られました。以前は楽曲ごとに担当するリズム隊のメンバーが変わることもありましたが、今回はベースのクリス・チェイニーとドラムのジョシュ・フリーズを中心とした固定メンバーで録音が行われ、これによりバンドサウンドとしてのまとまりや一体感がより強調されています。

タイトルとアートワーク

アルバムタイトルの「VOLT」には、複数の由来が関連しています。一つには、作曲期間中に息抜きとして釣りをしていた吉井に対して、進行状況を気にかけるスタッフから催促があった際、吉井が「（曲を作る）速度はボルト並だよ！」とユーモラスに返答したやり取りから着想を得た点が挙げられます。また、共同プロデューサーのジョー・バレシが、ソウルミュージックの名門レーベル「Stax/Volt」のロゴが入ったTシャツをよく着ていたことにもインスパイアされたといいます。さらに、本作が吉井和哉のソロ名義として通算5枚目にあたるオリジナルアルバムであり、タイトルの頭文字「V」が「5」を示すローマ数字の「V」と符合することも、タイトル決定の理由の一つとなりました。

ジャケットアートワークには、吉井和哉自身が子供の頃に油絵で描いたという、富士山の絵が使用されています。

主な収録曲とエピソード

アルバムには、個々の楽曲にまつわる様々なエピソードが存在します。

ビルマニア: 10枚目のシングル曲であり、吉井のキャリアにおいて初めてアルバムの1曲目を飾った楽曲です。シングル盤には記載されていなかった間奏部分のセリフが、アルバムの歌詞カードには明記されています。ライブでは、間奏後のサビを観客がシンガロングするのが定番となっています。
フロリダ: ブルース界の巨匠、B.B.キングの名が歌詞に登場する、ノリの良いブギーナンバーです。
ウォーキングマン: 吉井がブルースギターの演奏に挑戦した楽曲として知られています。
ノーパン: アルバム『at the BLACK HOLE』制作時期に書かれた詞を基に、初めて歌詞を先に作ってから作曲された異色の楽曲です。夏の日に畳の上で寝転がる娘さんの姿からインスピレーションを得て生まれたといいます。「ノーパン」というタイトルには、文字通りの意味に加え、音響用語で音を左右に振る操作を指す「パン（Pan）」という言葉とのダブルミーニングが込められています。吉井は、歌詞における「ノーパンで眠るあなた」は赤ん坊を、「パン」は「モラルの中央から外れないという意思表示」を象徴していると説明しています。リズムパート以外の演奏は全て日本で録音されたテイクが採用されており、ボーカルは最初に歌詞を見ながら歌ったテイク（1テイク目）がそのまま使われています。吉井自身がTHE YELLOW MONKEY時代の楽曲を含めた自身の全キャリアの中でも特に好きな楽曲として3本の指に挙げているほど、本人にとって重要な意味を持つ楽曲です。
魔法使いジェニー: 吉井は当初、この曲に登場する「ジェニー」は「銭」を、「T.M.P」は「高い マネー プリーズ」の略であると冗談交じりに説明していましたが、後に実際は放送コードに触れるほど性的な意味を持つ言葉であると明かしました。楽曲自体は『at the BLACK HOLE』の頃には既に存在していましたが、当時の心境では歌詞の世界観を表現することが難しかったため、本作で初めて形になったといいます。
SNOW: アルバム『39108』のツアー中に制作された楽曲で、アルバムリリースよりも早い段階で「YOSHII BUDOKAN 2008」ライブにて既に披露されていました。
ルビー: 歌詞に登場する「北国」は、アルバム『8』に収録されている楽曲「メロメ」の歌詞世界への言及であり、後の楽曲「HEARTS」にも通じるテーマ性が含まれています。
またチャンダラ: 「チャンダラ」とは、レコーディング期間中に吉井が頻繁に訪れていたタイ料理レストランの名前から来ています。コーディネーターがあまりにもその店に行くことを勧めるため、吉井が呆れて「じゃあ『またチャンダラ』っていう曲作るわ」と発言したことがきっかけとなり、その日の夜にリフが閃き、実際に楽曲として完成させたというエピソードを持つユニークなタイトルです。

初回限定盤付属DVD

初回限定盤に同梱された特典DVDには、2008年12月28日に東京・日本武道館で行われたライブ「YOSHII BUDOKAN 2008」の映像が主に収録されています。ただし、Radioheadのカバー曲「CREEP」の演奏や、吉井がアニメ映画「崖の上のポニョ」のキャラクターであるフジモトに扮して登場したアンコールの一部は含まれていません。CD本編と同様、このライブ映像の音声ミックスも共同プロデューサーのジョー・バレシが手がけています。

参加ミュージシャン

本作のレコーディングには、吉井和哉（ボーカル、ギター、キーボード他）を中心に、以下のミュージシャンが参加しています。

クリス・チェイニー (Chris Chaney) – ベース
ジョシュ・フリーズ (Josh Freese) – ドラム
パトリック・サンソン (Patrick Sansone from Wilco) – キーボード、オルガン、ピアノ
アラン・ヨハネス (Alain Johannes) – エレクトリック・ギター (#5)
ジュリアン・コリエル (Julian Coryell) – ギター (#7-9)
ジョー・バレシ (Joe Barresi) – シェイカー、トライアングル (#10)

また、「YOSHII BUDOKAN 2008」ライブの参加メンバーは以下の通りです。

吉井和哉 – ボーカル、ギター
三浦淳悟 – ベース
城戸紘志 – ドラムス
菊地英昭 – ギター
ジュリアン・コリエル – ギター
鶴谷崇 – キーボード

これらの情報から、アルバム「VOLT」は、吉井和哉が気負いを捨てて等身大のロックを追求し、国内外の実力派ミュージシャンや共同プロデューサーのジョー・バレシと共に作り上げた、彼のソロキャリアにおける重要な作品の一つであると言えます。

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