こまっちゃうナ

山本リンダ デビューシングル「こまっちゃうナ」

「こまっちゃうナ」は、日本の歌手、山本リンダの記念すべきデビューシングルとして、1966年9月20日に世に送り出されました。発売元は、当時設立間もないミノルフォン（現在の徳間ジャパンコミュニケーションズ）で、規格品番はKA-80でした。楽曲タイトルの正確な表記は、最後の「ナ」が小文字で記されています。

記録的なヒットと当時の背景

この楽曲は商業的に大きな成功を収め、累計売上は70万枚を突破、一説には100万枚に達したとも言われています。当時、作曲家の遠藤実氏が自らの名を冠して立ち上げたミノルフォンレコードは、設立間もない時期であり、ヒット曲や看板歌手が不足している状況でした。遠藤氏自身も経営のノウハウに乏しく、会社として苦境に立たされていました。そんなミノルフォンにとって、「こまっちゃうナ」は1965年発売の三船和子による「他人船」に続くヒットであり、設立から2年目にして初めてとなる特大のヒット曲となったのです。

楽曲誕生のユニークなエピソード

「こまっちゃうナ」の誕生には、興味深いうら話があります。作詞・作曲・編曲を手掛けた遠藤実氏が、山本リンダに初めて会った際、「君にはボーイフレンドはいるの？」と尋ねたところ、彼女は「そんなのリンダ、困っちゃうな」と答えたと言われています。この無邪気な一言が、そのまま楽曲のタイトル、そしてインスピレーションとなったのです。さらに、この「こまっちゃうナ」というフレーズは、当時の会社経営に苦慮していた遠藤氏自身の率直な心境をも表していたとも語られています。

歌手としてのキャラクターとメディア露出

「こまっちゃうナ」でデビューした当時の山本リンダは、少し舌っ足らずな話し方を魅力とする、いわゆる「可愛い子ちゃん歌手」として売り出されました。その人気を受けて、翌1967年には同名のアルバム『こまっちゃうナ リンダのヒット・メロディー』（ミノルフォン／規格品番：KC-4）が発売され、本作も収録されました。

同年には、権威ある音楽番組『第18回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たし、「こまっちゃうナ」を歌唱しました。この紅白の舞台では、ピンクのミニスカート姿でパフォーマンスを披露し、多くの視聴者の印象に残りました。当時、演歌の大家として知られる遠藤実氏が、これほどモダンなポップス調の楽曲を作曲したことに対し、会社の不振を背景に、無名のポップス系作曲家が手掛けたものを遠藤氏が買い取ったのではないか、といった噂も囁かれたそうです。

収録曲と近年の展開

シングルには、「こまっちゃうナ」（3分00秒）と、B面曲として「海と山の歌」（2分24秒）が収録されました。両曲とも作詞・作曲・編曲は遠藤実氏が担当しています。

半世紀以上の時を経て、「こまっちゃうナ」は現在でも様々な形で人々に親しまれています。例えば、2018年と2019年には、立石晴香が出演した日本デルモンテ「デルモンテ リコピンリッチ」のCMで、チャラン・ポ・ランタンが替え歌を披露しました。また、2023年には、遠藤実歌謡音楽振興財団が立ち上げた新レーベルから、音莉飴がエレクトリックなリミックスを施した「こまっちゃうナ2023」として配信リリースされました。さらに、2024年にはMATZ & Ninni feat. 金子みゆによるカバーバージョンも発表されるなど、世代を超えて楽曲が受け継がれています。

この楽曲は、1966年という音楽シーンの一断面を切り取るとともに、一人の歌手のキャリアの出発点、そしてあるレコード会社の歴史における重要な転換点を示す、多層的な意味合いを持つ作品と言えるでしょう。

関連項目として、1966年の音楽が挙げられます。

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