ねこタクシー

『ねこタクシー』とは

永森裕二氏の小説を原作としたメディアミックス作品で、テレビドラマシリーズと劇場版映画が制作されました。心に傷を抱える一人の男性が、偶然出会った一匹の猫によって人生を取り戻していく姿を描き、観る者に温かい感動を与えます。

テレビドラマ版

テレビドラマは2010年1月より、tvkほか複数の放送局で放映されました。物語の中心となるのは、かつて中学校の教師でしたが、現在はタクシー運転手として働く間瀬垣勤（演：カンニング竹山）です。仕事への意欲を失い、家庭内でも妻や娘との関係にぎくしゃくし、どこか居場所がないと感じながら日々を送っていました。

そんな彼の前に現れたのが、公園の土管に住み着いていた一匹の野良の三毛猫、「御子神さん」です。首輪に「御子神」と書かれた名札をつけたこの猫に、勤は次第に心を奪われ、仕事の合間に公園へ立ち寄り、餌を与えるようになります。御子神さんとの触れ合いを通じて、勤の心には変化が生まれ始め、やがて彼は御子神さんを自宅に迎え入れ、さらには助手席に乗せて「ねこタクシー」としての営業を開始します。この新たな挑戦が、勤自身の人生だけでなく、周囲の人々との関係にも影響を与えていくのです。

ドラマでは、御子神さんがオスの三毛猫という非常に珍しい存在であることが強調されており、そのミステリアスな魅力が物語を彩ります。また、主人公の間瀬垣勤を演じたカンニング竹山氏は、当時の運転免許が原付のみであったため、劇中の運転シーンでは牽引撮影や自転車での通勤シーンが用いられるという裏話があります。

主要登場人物としては、世間体を気にする一方で夫を案じる妻・真亜子（演：鶴田真由）、受験勉強に追われつつも猫好きで父を支持する娘・瑠璃（演：山下リオ）といった間瀬垣家の面々に加え、ぶっきらぼうながらも勤に影響を与える同僚運転手・沼尻崇（演：甲本雅裕）、タクシー会社の無線担当・山梨景子（演：李千鶴）、そして温厚な営業所長・真泉平（演：高橋長英）が登場し、物語を支えます。沼尻の抱える事情（バツイチで息子の養育費が必要）や、真亜子の過去の経験による猫への複雑な思いなども描かれ、登場人物たちの人間ドラマが深く掘り下げられています。

なお、ドラマの撮影には実在するアサヒタクシーが協力しており、実際の営業車両が使用されています。ただし、フィクション作品であるため、放送時には現実の営業とは異なる旨の断り書きが添えられました。放送はハイビジョン形式で行われましたが、撮影はSD画質で制作されており、一部チャンネルではアップコンバートでの放送となりました。

主題歌は加藤英美里が担当し、作品の温かい雰囲気を盛り上げています。

映画版

劇場版映画は2010年6月12日に公開されました。監督は亀井亨が務め、テレビドラマ版と同じ登場人物と設定を共有しつつも、ストーリーは大きく異なる展開を見せます。

映画版の主人公、間瀬垣勤（演：カンニング竹山）は、対人関係の苦手さから教師を辞職し、タクシー運転手となった人物。ここでも彼は営業成績が振るわず、家族との関係にも悩んでいます。そんな中、ドラマ版と同様に三毛猫の御子神さんと出会い、心を奪われます。

映画版独自の要素として、「ねこババァ」と呼ばれる要注意人物、松本スミエ（演：室井滋）との出会いがあります。釣銭詐欺に遭った勤が彼女の家を訪れると、そこには多数の猫と共に御子神さんの姿が。さらに、生後間もないマンチカン「コムギ」も登場します。勤は御子神さんとコムギを引き取り、「ねこタクシー」の営業を開始することを決意します。

「ねこタクシー」は評判を呼び、勤の営業成績は急上昇し、自信を取り戻していきます。しかし、同僚の丹羽仁美（演：芦名星）がこれを模倣し、それが雑誌に取り上げられたことから騒動が勃発。さらに、百足市保健所の宗形誠二（演：内藤剛志）が動物愛護の観点から「ねこタクシー」の営業に難色を示し、動物取扱業としての登録が必要であると指摘します。様々な困難に直面しながらも、勤は御子神さん、コムギと共に再び「ねこタクシー」を走らせたいと強く願うようになります。

映画版では、保健所職員の宗形、ねこババァこと松本スミエ、勤の模倣犯である丹羽仁美、そして人気歌手の炎悟（演：水木一郎）といった映画版のみのキャラクターが登場し、物語に深みを与えています。主演のカンニング竹山は、気弱だが優しい中年男性を好演し、ぴあ初日満足度ランキングで第6位にランクインするなど、好評を博しました。

主題歌は水木一郎氏が歌う「ソラノワダチ」が使用されました。

『ねこタクシー』シリーズは、一匹の猫がもたらす癒やしと、それによって主人公が自己肯定感を取り戻し、人生を前向きに歩み始める姿を描いた、心温まる作品群です。

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