ふざけんじゃねぇ

長渕剛の転換期を彩る名盤『ふざけんじゃねぇ』：移籍第一弾アルバムの軌跡

1997年9月3日、日本のミュージシャン、長渕剛の16枚目のオリジナルアルバム『ふざけんじゃねぇ』がリリースされました。これは、長渕剛が東芝EMIからフォーライフ・レコードに移籍して発表した最初のアルバムであり、彼のキャリアにおいて重要な転換点となった作品です。

複雑な背景：移籍の舞台裏

このアルバムのリリースに至るまでには、幾多の出来事が絡み合っています。1994年の急病によるライブツアーの中断、多額の負債、所属事務所の混乱など、長渕剛は困難な時期を経験していました。レコード会社移籍や事務所の変更といった計画も、1995年の大麻取締法違反による逮捕（後に不起訴）によって頓挫。その後も、シングル「友よ」のリリースや大規模なライブツアーを成功させながらも、東芝EMI内部では、長渕剛に対する不要論が浮上し、最終的に移籍という決断に至りました。移籍決定後も、テレビドラマ『英二ふたたび』の放送や、関連ドキュメンタリー番組の制作、移籍第一弾シングル「ひまわり」のリリースなど、精力的な活動を展開していました。

音楽性：ニューエイジ風のワールドミュージック

『ふざけんじゃねぇ』は、長渕剛と瀬尾一三、笛吹利明による共同プロデュースで制作されました。音楽性は、前作『家族』とは一転して穏やかな歌声が印象的で、チャランゴやフラットマンドリンといった楽器を多く取り入れた、ニューエイジ風のワールドミュージックに仕上がっています。

音楽ライターの藤井徹貫氏は、このアルバムについて「穏やかな空気が漂っている」と評し、長渕剛の達観への憧憬を感じ取っています。一方、二木信氏は「長渕流サイケデリック・ワールド・ミュージック」と表現し、シンセサイザーやパーカッション、チャランゴ、フラットマンドリンなどの音色が織りなす独特の世界観を高く評価しています。

収録楽曲には、長渕剛自身の初となるカバー曲である坂本九の「上を向いて歩こう」や、テレビ朝日系テレビドラマ『ボディーガード』の主題歌「ひまわり」、西村公朝氏との共作詞による「金色に輝け50年」など、バラエティに富んだ楽曲が並んでいます。「ひまわり」はオリコンチャートで最高5位を記録し、ロングセラーとなりました。また、「英二」は、長渕剛が主演を務めたテレビドラマ『とんぼ』の主人公小川英二へのオマージュとも取れる楽曲です。

レコーディングと参加ミュージシャン

レコーディングは日本国内で行われ、数多くのミュージシャンが参加しています。ドラムスには今泉正義、島村英二、ベースには岡沢茂、岡沢章、美久月千晴らが参加。ギターには長渕剛自身と笛吹利明、そして矢島賢らが参加し、キーボードには中西康晴、竹田元、エルトン永田らが参加しています。その他にも、パーカッション、ヴァイオリン、コーラス、ストリングスなど、多彩な楽器編成がアルバムの豊かなサウンドを支えています。

リリースとツアー

アルバムはCDとカセットテープの2形態でリリースされ、オリコンチャートで最高位1位を獲得しました。その後、「LIVE'97 - '98 ふざけんじゃねぇ」と題したコンサートツアーが開催され、全国16都市27公演が行われました。このツアーの模様はライブビデオ『LIVE'97-'98 "ひまわり"』として収録されています。

批評家の評価

音楽情報サイト『CDジャーナル』では、歌い方に対する批判的な意見と、穏やかな歌声と達観した詞世界への肯定的な評価が混在していました。文芸雑誌『別冊カドカワ 総力特集 長渕剛』では穏やかな雰囲気を評価する一方、『文藝別冊 長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌』では、アルバム全体を肯定的に評価し、長渕剛の優しさが溢れていると評しています。

まとめ

『ふざけんじゃねぇ』は、数々の困難を乗り越えた長渕剛の、新たな出発を告げる力強い作品です。移籍後初のアルバムとして、彼の音楽性の幅広さと、その進化を感じさせる、極めて重要な一枚と言えるでしょう。ワールドミュージック的なサウンドと、ドラマ主題歌「ひまわり」を含む全10曲は、彼の音楽キャリアの中でも特筆すべきものとなっています。このアルバムは、長渕剛の音楽史において、一つの転換点、そして新たな時代の幕開けを示す象徴的な作品として、これからも語り継がれていくに違いありません。

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