ムラサキ

ムラサキ（紫）とは

ムラサキ（Lithospermum erythrorhizon）は、ムラサキ科の多年草で、初夏から夏にかけて可憐な白い花を咲かせます。日本では北海道から九州まで広く分布していましたが、現在では自生しているものは非常に少なく、絶滅危惧種に指定されています。栽培されることもありますが、同属のセイヨウムラサキ（L. officinale L.）が利用されることが多いです。

特徴

和名「ムラサキ」の語源には諸説ありますが、群生して咲く様子から「群ら咲き」が転じたという説と、紫色の根に由来するという説が有力です。

ムラサキは、冷涼な山地の草原を好み、半日陰で排水の良い場所でよく育ちます。草丈は30～80cmほどで、茎は直立し、上部で枝分かれします。全体に粗い毛が生えており、葉は互生で披針形をしています。花期は6～8月で、茎の先端の葉腋に小さな白い花を咲かせます。果実は灰白色で、4つの分果から構成されています。

近縁種のセイヨウムラサキは、繁殖力が強く、茎が枝分かれし、花が小さいという点でムラサキとは区別されます。

2007年には、滋賀県東近江市の花として選ばれました。

利用

生薬

ムラサキの乾燥した根は「紫根（しこん）」と呼ばれ、生薬として利用されます。紫根には、抗炎症作用、創傷治癒促進作用、殺菌作用などがあり、紫雲膏などの漢方薬に配合されています。近年では、口内炎や舌炎の治療にも用いられています。民間療法では、解熱、解毒、利尿、肉芽形成促進などの目的で、煎じて服用されています。

紫根の主要成分は、ナフトキノン誘導体のシコニン、アセチルシコニン、イソブチルシコニンなどです。

染料

ムラサキは、古くから紫色染料として利用されてきました。特に、青みがかった「江戸紫」は有名です。染料として用いるには、乾燥した紫根を粉末にして微温湯で抽出し、灰汁で媒染して染色します。江戸時代には、紫で染めた絹を鉢巻にして病気平癒を祈願する風習もありました。

口紅

染料や薬効成分であるシコニンは、バイオテクノロジーによって大量生産が可能になり、口紅などの化粧品にも利用されています。

絶滅危惧種としての現状

ムラサキは、万[[葉集]]にも登場するほど古くから親しまれてきた植物です。しかし、明治時代以降、合成染料の普及により商業的価値を失い、自生地の環境悪化も重なって、野生のムラサキは激減しました。現在では、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IB類に指定されています。

ムラサキの栽培は、種の発芽率が低く、ウイルスにも弱いため、非常に困難です。そのため、現在では中国などから輸入された近縁種がムラサキとして流通していますが、交雑が進み、純粋なムラサキの存続を脅かしているという問題も抱えています。

注意点

近年、ムラサキは健康食品としても販売されていますが、ピロリジジンアルカロイドという肝癌などを誘発する可能性のある有害物質が含まれているため、摂取には注意が必要です。近縁種についても同様の危険性があります。

近縁種

ホタルカズラ (Lithospermum zollingeri)
セイヨウムラサキ (Lithospermum officinale)
* イヌムラサキ (Lithospermum arvense)

まとめ

ムラサキは、美しい花を咲かせ、古くから染料や薬として人々の生活に寄り添ってきた植物です。しかし、現在では絶滅の危機に瀕しており、その保護と再生が急務となっています。ムラサキの歴史と現状を理解し、その保全に努めていくことが大切です。

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