アザゼル

アザゼル：聖書から魔神学まで

アザゼルは、旧約聖書『レビ記』に登場する言葉であり、堕天使や魔神として解釈される存在です。その多様な側面を、聖書、黙示文学、魔神学といった異なる文脈から紐解いていきます。

レビ記におけるアザゼル

『レビ記』第16章は、贖罪日（ヨム・キプル）の儀式を詳細に記しています。この儀式において、2匹の雄山羊が用意され、くじ引きによって一匹は神にささげられ、もう一匹は「アザゼルのもの」として扱われます。このアザゼルのものとされた山羊は、生きたまま荒野に放逐され、イスラエルの民の罪を負うとされています。

ヘブライ語のアザゼル(עֲזָאזֵל)は、「強い」「ごつごつした」を意味する「アズ(עז)」と「強大」を意味する「エル(אל)」から成り、荒野の険しい岩山や断崖を指すと解釈されることもあれば、超自然的存在や悪霊を指すと解釈されることもあります。70人訳聖書では、「アザゼル」という単語は用いられず、山羊に対する行為に焦点を当てた表現に置き換えられています。これは、翻訳者たちが「アザゼル」の具体的な意味を理解していなかった可能性を示唆しています。

英語のscapegoatは、この『レビ記』の故事に由来し、「贖罪の山羊」あるいは身代わり、犠牲者を意味する言葉として広く用いられています。

堕天使としてのアザゼル

黙示文学やラビ文学では、アザゼル（またはアザエル、アゼルなど）は堕天使として登場します。『第一エノク書』によれば、アザゼルは200人の天使の一人で、人間の女性と交わり、人間に様々な知識や技術を授けたとされています。これらの行為は神を怒らせ、アザゼルは荒野の穴に閉じ込められるという罰を受けます。

『エノク書』におけるアザゼルは、元々は神に命じられて人間を監視する役割を担っていましたが、人間の女性に魅了され、禁を犯したとされています。『第二エノク書』では、この堕天使の集団はグリゴリと呼ばれます。これらの物語は、創世記の「神の子ら」が人間の娘と交わったという記述を、後世の作者たちが発展させたものと考えられています。

アザゼルが堕天使となった経緯については、神に仕えることを拒否した、など様々な説が存在します。

魔神学におけるアザゼル

中世ヨーロッパの魔神学では、アザゼルは風の元素、アザエルは水の元素に関連付けられる悪魔として登場します。コルネリウス・アグリッパの『隠秘哲学』では、四方を司る精霊の王、あるいは悪魔の四君主の一人としてアザゼルの名が挙げられています。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』では、山羊番の魔神として描かれています。通俗的なデモノロジーにおいて、悪魔のアザゼルと山羊が結び付けられるのは、『レビ記』のアザゼルとの関連性が影響していると考えられています。

まとめ

アザゼルは、聖書における贖罪の儀式、黙示文学における堕天使、そして魔神学における悪魔という、多様な文脈で解釈されてきた存在です。その姿や役割は時代や文化によって変化しつつも、罪や罰、人間の過ちといった普遍的なテーマと深く関わっていることが分かります。 それぞれの文献や解釈を比較検討することで、アザゼルの持つ複雑な意味を理解することができます。

もう一度検索