オニイトマキエイ

オニイトマキエイ：巨大な海の生き物

オニイトマキエイ（学名: Mobula birostris）は、最大で体盤幅8メートル、体重3トンにも達する巨大なエイです。かつてはナンヨウマンタと混同されていましたが、現在では別種として認識されています。英語では「マント」を意味するMantaと呼ばれ、日本でもマンタの名で親しまれています。

形態と生態

オニイトマキエイの体は扁平な菱形で、細長い尾を持ちます。背面は黒色、腹面は白色ですが、個体によって斑点や擦り傷などがあり、個体識別の目印となっています。全身が黒色の個体も存在し、「ブラック・マンタ」と呼ばれています。

特徴的なのは、頭部両側にある胸鰭由来の頭鰭（とうき）です。ヘラ状のこの鰭は自由に形を変え、餌となるプランクトンを効率的に捕食するのに役立っています。オニイトマキエイは、プランクトンを濾しとって食べる濾過摂食を行い、泳ぎながらプランクトンを捕食します。そのため毒針は持っていません。

泳ぐ際には、大きな胸鰭を羽ばたくように動かし、比較的ゆっくりと移動します。しかし、プランクトンの群れを見つけると、高速で旋回しながら海水ごとプランクトンを吸い込み、鰓で濾過して食べます。ダイバーの出す気泡にも反応し、宙返りをすることもあります。また、海面からジャンプする行動も観察されており、その理由については、寄生虫を落とすため、繁殖行動、あるいは遊びなど、様々な説が提唱されています。

オニイトマキエイは、単独で行動することが多く、コバンザメやブリモドキなどの魚が寄り添っている姿もよく見られます。これらの魚は、オニイトマキエイの食べ残しや寄生虫などを食べて共存しています。沿岸域では、繁殖のために群れを成すこともあります。大型の体格ゆえに、ホホジロザメなどの大型の捕食者から襲われることはほとんどありません。ただし、オスは求愛行動でメスの鰭に噛み付くため、メスの鰭先に噛み跡が見られることも多いです。

繁殖は卵胎生で、一度に1～2尾の子を産みます。妊娠期間は約13か月で、生まれた子供は既に体盤幅1～1.2メートル、体重50キロ前後と、かなりの大きさです。その後も成長を続け、10～20年で成熟すると考えられています。寿命は20年以上と推定されていますが、50年以上、あるいは100年以上という説もあるなど、詳しいことは分かっていません。

オニイトマキエイは、魚類の中でも特に高い知能を持つ種と考えられています。脳化指数が高く、脳の質量はジンベエザメのおよそ10倍もあるとされます。2016年の実験では、ミラーテストにおいて鏡像認知能力を示唆する反応が見られました。

分布と分類

オニイトマキエイは、世界中の熱帯・亜[[熱帯]]海域、特にサンゴ礁周辺に生息します。普段は外洋の表層を遊泳していますが、沿岸域で見られることもあります。

分類については、以前はオニイトマキエイのみでオニイトマキエイ属を構成するとされていましたが、近年では、ナンヨウマンタ(Mobula alfredi)との関係が再検討され、イトマキエイ属に含める説なども提唱されています。遺伝子解析の結果や形態的な違いから、現在ではナンヨウマンタと明確に区別されています。

人間との関係と保全

オニイトマキエイは、食用や皮革製品、漢方薬として利用されることがあります。しかし、食用や薬用目的の漁業、混獲、沿岸開発、海洋汚染、船舶との衝突などにより、生息数は減少しています。

2013年には、ワシントン条約附属書IIに掲載され、国際的な保護の対象となっています。日本では、環境省レッドリストで情報不足（DD）に分類されています。

ダイバーの間では人気の高い生き物で、そのおとなしく人懐っこい性格から、比較的容易に観察することができます。水族館での飼育・展示も進められており、2018年には沖縄美ら海水族館が世界で初めてオニイトマキエイの飼育・展示に成功しました。しかし、その大きな体格と遊泳力から、搬送には高度な技術と工夫が必要とされます。

特に、南シナ[[海]]、フィリピン海、メキシコの西海岸などでは、個体数の減少が報告されています。繁殖力の弱さから、個体数減少の回復には長い時間がかかることが懸念されています。局地的な絶滅リスクも高く、保全対策が急務となっています。

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