ケシク

ケシクについての詳細

ケシク（モンゴル語: Хишиг kešik）は、モンゴル帝国において君主であるカアンや皇族を昼夜問わず護衛した親衛隊のことを指します。この制度は、単なる軍事的組織にとどまらず、カアンの日常生活を支え、将来的には国政を担う人材を養成する役割も果たしていました。つまり、ケシクはモンゴル帝国において多様な機能を持つ重要な機関でした。

語義とその解釈

ケシクの語義については主に二つの説があります。第一の「恩寵」説は、モンゴル史研究の先駆者である箭内亘が主張したもので、ケシクがカアンから特別な恩恵を受ける存在であることを示しています。モンゴル語において「ケシク」が「恩恵」や「親切」を意味することから、この解釈が広まったと言われています。

一方、最近の研究では「輪番」説が提案されており、ケシクが実は「輪番制度」に基づく組織であると考えられるようになっています。この見解は、同時代のウイグル語文書やテュルク語辞典におけるケシクの使用例から導き出されています。この説が正しければ、ケシク自体は特定の親衛隊組織を指すのではなく、輪番で交替する警備員のような意味合いが強かったということになります。

ケシクの沿革

ケシクの起源は遊牧国家における親衛隊制度にあり、少なくとも北魏の時代まで遡ることができます。この時期、北魏では部族長から有能な者を選定し、親衛隊を構成する機能が存在していました。モンゴル帝国が成立する以前から、様々な部族が質子を通じて君主に仕えさせ、忠誠心を築いていた点が、ケシクの形成に大きく影響しています。

チンギス・カンが即位した際、彼は独自の親衛隊であるケシクを設立しました。1189年には既にノコルと呼ばれる忠誠心の強い仲間たちから構成される部隊が存在し、チンギス・カンの成長とともにケシクも成長していきました。彼らは最終的に彼の直属の部隊として位置づけられ、国家の要職に就く者たちの育成に貢献しました。

大元ウルスにおけるケシク

モンゴル帝国の後期である大元ウルスでもケシク制度は継続され、カーンの側近として重要な役割を果たしました。特にクビライ・カーンは、中国式の官僚制度を導入しつつ、ケシクの地位を高め、彼らが将来の官僚として活躍する場を与えました。これに伴い、ケシク出身の者たちは多くの高官職を占めるようになり、国家の運営においてもその影響力が増しました。

さらに、ケシクはカアンの家事とも密接に取り組んでおり、身の回りの世話や飲食の管理なども行っていました。このため、ケシクは軍事・政治だけでなく、日常生活の重要な部分でも影響を与えました。

ケシク制度のその後

大元ウルス消滅後も、ケシクの制度は部分的に残存しており、特にチャハル部においては「ケシクテン」という形でその伝統が引き継がれました。しかし、時代の変化とともに次第にその形態は独立した遊牧集団へと変化していきました。清朝時代には、ケシクに関連する制度は名残を留めつつも新たな政治的体系に吸収され、次第にその存在意義は薄れていきました。

このように、ケシクはモンゴル帝国におけるリーダーシップが形成されただけでなく、後世にもその影響を及ぼす重要な制度であったといえるでしょう。

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