サウル

サウル（Saul）

サウルは旧約聖書『サムエル記』に記されたイスラエル王国の初代王で、紀元前10世紀頃の人物です。彼はベニヤミン族に属し、特徴的な高身長と魅力的な容姿を持っていました。サウルの生涯は、彼の選出の背景、王としての業績、最期の運命に分けることができます。

選ばれた経緯

サウルが王に選ばれる前、イスラエルの士師であったサムエルの元に、民から王を求める声が高まりました。サムエルは王政の問題点を説明しましたが、民はその意見を無視し、結局神の指示に従うことになりました。サムエルは、民が王によって必然的に従わねばならない運命を警告しました。具体的には、息子たちが兵士として徴用され、娘たちが王宮で働かされ、また農地からの税金や労役が課せられることになると述べました。そのため、彼らは王の奴隷となるでしょう。

サウルは、ロバを探している途中でサムエルに出会います。サムエルは、彼が神に選ばれた人物であることを見抜き、彼に王の印である油を注ぎました。

王としてのサウル

サウルは王として最初の戦闘で、ペリシテ人に囲まれたヤベシ・ギレアデを救出し、これにより民から王としての支持を受けました。その後、彼は息子のヨナタンや忠実な家臣と共に周辺の民族と戦い、数々の勝利を収めます。しかし、一方で、神の命令に従わずアマレク人を滅ぼさなかった結果、神の心が離れてしまいます。サムエルはこのことを受けて、ダビデに新たに油を注ぎ、サウルの後継者として彼を選びました。

ダビデがペリシテの勇者ゴリアテを倒し、王の家に仕えるようになると、サウルはダビデの人気を妬み、命を狙うようになります。しかしダビデは、唯一神に選ばれた者であるサウルを手にかけることをためらい、何度も彼の命を奪う機会がありましたが、実行しませんでした。ダビデが奏でる竪琴の音色によって、サウルからは悪霊が追い出されるというエピソードは、音楽療法の原始的な形態とされています。

最期

サウルの最後の日々は悲劇的でした。サムエルの死後、ペリシテ軍が攻めてきた際、サウルは神に助けを求めましたが、答えは得られませんでした。そこで、かつては禁じていた口寄せの術に頼ることになります。サムエルが彼に再び現れ、イスラエルがペリシテの手に渡ることを告げた際、サウルは絶望します。最終的に、彼はギルボア山で息子たちと共にペリシテ軍との戦いに臨み、戦局が切迫する中で剣の上に身を投げ、自害することを選びました。

彼の死後、戦利品としてペリシテ人の手に渡ったその遺体は、鎧を剥がされて晒されましたが、ヤベシ・ギレアデの勇士たちによって夜中に取り返されました。サウル王と彼の息子ヨナタンは火葬され、その遺骨はヤベシの木の下に埋葬されました。後に、新しい王となるダビデにより、サウルの遺体は返還されました。

家族

サウルの家族は複雑で、彼には多くの子供がいました。妻はアヒノアムとリヅパ、息子にはヨナタン、エスイ、マルキシュア、アビナダブ、エシバアル（イシュ・ボシェテ）などがいます。娘にはメラブとミカルがおり、従兄弟にはアブネルという軍司令官がいます。サウルの家族や家系については、聖書の中で詳しく記されています。

サウルの死後、彼の血筋であるイシュ・ボシェテが王位を継ぎますが、最終的にはダビデによってその王朝は終焉を迎えることとなります。サウルの孫メピボセテは、ダビデに仕え、彼と共に食卓を分かち合う存在となりました。サウルの生涯は、権力、嫉妬、信仰と道徳の狭間での苦悩の象徴とも言えるでしょう。

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