シモ・ヘイヘ

シモ・ヘイヘ：伝説の狙撃兵「白い死神」

シモ・ヘイヘ（Simo Häyhä）は、フィンランドの軍人であり、卓越した狙撃兵（スナイパー）として知られています。特に、ソビエト連邦との間で繰り広げられた冬戦争（1939-1940）において、その驚異的な狙撃能力を発揮し、「白い死神」（Белая смерть、Valkoinen kuolema）の異名で恐れられました。

生い立ちと兵役

1905年12月17日、フィンランド南東部の小さな町ラウトヤルヴィで生まれたヘイヘは、軍人となる前は猟師兼農民として生活していました。幼少の頃から狩猟に親しみ、特にキツネ撃ちを得意としていたと言われています。20歳で民兵組織「フィンランド白衛軍」に入隊すると、その射撃の腕前はすぐに頭角を現しました。

1925年、フィンランド陸軍に入隊。新兵訓練期間を経て下士官学校を卒業後、兵長として勤務しました。兵役終了後は予備役となり、民間防衛隊に所属。この間も射撃の訓練を怠らず、その腕を磨き続けました。

冬戦争での活躍

1939年、冬戦争が勃発すると、ヘイヘは予備役兵長として招集され、故郷に近いコッラ川周辺での防衛任務に就きました。配属された第6中隊の指揮官、アールネ・ユーティライネン中尉は、ヘイヘの射撃能力を見抜き、狙撃兵としての任務を与えました。

冬戦争は、氷点下40℃にもなる極寒の中での戦いでした。ヘイヘは、迷彩効果の高い純白のスノースーツを着用し、雪に紛れて狙撃を行いました。彼の狙撃によって次々と倒れていく赤軍兵士たちは、彼を「白い死神」と呼び恐れました。

驚異的な狙撃技術

ヘイヘは、モシン・ナガンM28-30小銃を使用しました。この銃は、ロシア帝国時代のモシン・ナガンM1891をベースに、フィンランドのSAKO社が改良したものでした。特徴的なのは、ヘイヘがスコープを使用せず、鉄製の照星と照門のみで狙撃を行ったことです。これは、猟師時代から慣れ親しんだ射撃姿勢を好んだためであり、またスコープの反射光で位置を悟られるのを嫌ったためでもありました。さらに、寒さで吐く息が白くなるのを防ぐために、雪を口に含んでいたと言われています。

ヘイヘの狙撃技術は、入隊前に培われたものでした。ケワタガモ猟で磨かれた腕は、実戦で驚異的な精度を発揮しました。彼は、150mの距離から1分間に16発を命中させるという驚異的な記録も残しています。実戦では、300m以内であればほぼ確実に敵の頭部を狙撃し、最長で450m以上の距離からの狙撃も成功させました。彼の射撃は、単に射撃の腕が良いだけでなく、確実に命中させる自信がある時にのみ射撃を行う、冷静沈着な判断力も備わっていました。

記録と負傷

ヘイヘの公式確認戦果は、542名に達し、これは狙撃兵として世界最多記録とされています。しかし、この記録には狙撃銃以外の火器による殺害数は含まれていません。彼はサブマシンガンも巧みに扱い、ある戦闘では200名以上の敵兵を殺害したと言われています。

1940年3月6日、ヘイヘは赤軍兵士の銃撃により顎を撃ち抜かれる重傷を負いました。意識不明の状態で救出され、病院へ搬送されました。幸いにも一命は取り留めましたが、顎には生涯消えない傷痕が残りました。

戦後と晩年

終戦後、ヘイヘはマンネルヘイム元帥と面会し、勲章を授与されるとともに、少尉に特進しました。その後は、猟師、農家、そして猟犬のブリーダーとして静かに余生を送りました。生涯独身で、自らの従軍体験について多くを語ることはありませんでした。しかし、彼の狙撃技術は「ひたすら練習するだけ」と語っています。また、多数のソ連兵を射殺したことについては「義務を果たしただけだ」と控えめに語っています。

2002年4月1日、ヘイヘは96歳で死去しました。彼の故郷であるラウトヤルヴィには、彼を顕彰する「コッラーとシモ・ヘイヘ博物館」が建てられています。

性格

ヘイヘは非常に控えめな性格で、写真撮影の際も常に後列や他人の影に隠れて写っていました。晩年のインタビューでも、質問された内容にのみ答えるだけで、多くを語ることはありませんでした。その謙虚な姿勢は、多くの人に感銘を与えました。

シモ・ヘイヘは、卓越した狙撃技術と謙虚な人柄で、フィンランドの英雄として今も語り継がれています。

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