ジェリーの日記

ジェリーの日記：トムとジェリーの珍しい物語

1949年10月22日公開の『トムとジェリー』シリーズ短編作品『ジェリーの日記』は、いつもの猫とネズミの追いかけっことは一味違う展開を見せる、興味深い作品です。

物語は、トムがジェリーを捕まえようと、ありとあらゆる罠を仕掛けるところから始まります。しかし、ラジオから流れてきたのは、陽気な司会者、ダドリーおじさんの動物愛護週間の放送。動物を可愛がるよう呼びかける放送に、最初は抵抗するトムでしたが、次第に心を入れ替え、罠を撤去し、ジェリーへのプレゼントを用意することにします。

ところが、ジェリーは留守。トムは、ジェリーの巣穴で見つけた「僕の日記」という本を盗み読んでしまいます。

日記には、過去のトムとジェリーが繰り広げた数々の出来事が綴られていました。『目茶苦茶ゴルフ』、『ネズミ取り必勝法』、『恋ははかなく』、『勝利は我に』…どれもトムが散々な目に遭った出来事ばかりです。日記を読み進めるにつれ、トムの怒りは頂点に達し、プレゼントは投げ捨てられ、最後は日記を破り捨ててしまいます。

ちょうどその時、ジェリーが帰ってきました。激昂したトムはジェリーを襲いかかろうとしますが、再びラジオからダドリーおじさんの声が。「動物のためにいい物を用意したかな？用意ができたらご褒美にそれをあげましょう」。その言葉に促されるかのように、トムは用意していたパイを、勢いよくジェリーに投げつけます。パイまみれになったジェリーは、わけが分からず首を傾げるばかりでした。

本作は、トムが勝利する数少ない作品の一つです。通常はジェリーが巧みな策略でトムを出し抜くことが多いですが、この作品では、ダドリーおじさんの放送と、ジェリーの日記という意外な展開によって、トムが勝利という形になります。

登場キャラクターは、いつものトムとジェリーに加え、動物愛護を呼びかけるラジオ番組の司会者、ダドリーおじさんが重要な役割を担っています。ダドリーおじさんのラジオは、顔のような形をしており、声に合わせて表情を変える演出も特徴的です。

また、『ジェリーの日記』は、過去の『トムとジェリー』作品の一場面を回想として使用した、初期の総集編的な作品でもあります。この手法は、後の作品『恋のとりこ』、『トム氏の優雅な生活』、『映画大会』などにも引き継がれ、シリーズ全体に影響を与えました。

エンディングクレジットでは、「The End」の後に「An MGM Tom and Jerry CARTOON」が表示されますが、「MADE IN HOLLYWOOD, U.S.A.」の表示はありません。これは、当時の制作事情を反映していると考えられます。

『ジェリーの日記』は、トムとジェリーの定番のユーモラスな要素に加え、動物愛護というテーマ、そして過去の作品へのオマージュといった要素が組み合わさった、ユニークな作品と言えるでしょう。一見するとトムの勝利に見えますが、その過程には、偶然と皮肉が複雑に絡み合っている、奥深い短編アニメーションです。

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