スキルス

スキルス胃癌：進行性の胃がんとその実態

スキルス胃癌（scirrhous carcinoma）は、胃壁全体に広がるように浸潤する悪性腫瘍の一種です。硬癌とも呼ばれ、その名の通り、胃壁が硬く厚くなるのが特徴です。通常の胃がんとは異なり、塊として成長するのではなく、胃壁の組織に徐々に染み渡るように広がっていくため、早期発見が非常に困難です。

スキルス胃癌の病態

スキルス胃癌では、がん細胞が正常組織にびまん性に浸潤します。そのため、がん病変の表面が正常組織で覆われたり、病変の中に正常組織が点在したりすることがあります。また、がん細胞は血管を破壊しながら増殖するため、内視鏡検査でも発見が難しい場合があります。従来は、胃炎の一種と考えられていたこともありました。

近年では、ヘリコバクター・ピロリ菌感染との関連性も指摘されています。また、遺伝的な要因も深く関わっており、CDH1遺伝子変異によるE-cadherinの機能不全が、スキルス胃癌の発生に大きく関与していることが分かっています。特に、ニュージーランドのマオリ族では、遺伝性びまん型胃癌家系が多く見られ、胃の印環細胞癌や乳腺小葉癌の多発も報告されています。さらに、PSCAやRhoA遺伝子の変異も研究されています。

国立がん研究センター研究所を中心とした国際共同研究では、大規模なゲノム解析の結果、SBS16遺伝子の変異シグネチャーがびまん型胃癌、特に東アジア人に多く、飲酒やアルコール分解能の弱さと関連があることが示されました。また、飲酒に関連したゲノム異常がRHOA遺伝子の変異を誘発し、スキルス胃癌の発症につながることが明らかになっています。

スキルス胃癌の形態

スキルス胃癌は、低分化型癌細胞や印環細胞癌をしばしば伴います。進行すると、胃壁が厚く硬くなり、「革袋様」と呼ばれる形態になります。これは、がん細胞のびまん性浸潤と過度の線維化によるものです。

早期のスキルス胃癌では、内視鏡検査で「聖域」と呼ばれる正常粘膜の残存部分や、「インゼル」と呼ばれる発赤した再生粘膜が観察されることがあります。病変の縁は「断崖」状で、通常の胃がんのような蚕食像はみられません。

スキルス胃癌の症状

スキルス胃癌の症状は、進行度によって異なりますが、一般的には、食欲不振、吐き気、嘔吐、体重減少などが挙げられます。また、食事量が減少したり、吐血や血便、黒色便を伴うこともあります。下痢を伴う場合もあります。

著名な患者

残念ながら、多くの著名人がスキルス胃癌で亡くなっています。中には、ナポレオンや逸見政孝氏、手塚治虫氏、成田三樹夫氏など、私たちに広く知られた方々も含まれています。これらの例は、スキルス胃癌の危険性と早期発見の重要性を改めて認識させるものです。

しかし、近年は医療技術の進歩により、早期発見や治療法の開発も進んでいます。早期発見できれば、外科手術や化学療法などの治療によって、予後を改善できる可能性があります。

まとめ

スキルス胃癌は、進行が早く、早期発見が困難な胃癌です。しかし、近年は遺伝子レベルでの研究が進み、発症メカニズムや治療法の開発が進んでいます。早期発見、早期治療が最も重要です。定期的な健康診断と、少しでも気になる症状があればすぐに医療機関を受診することが大切です。

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