トーテム

トーテムとは

トーテム（totem）とは、特定の集団や人物、特に部族や血縁関係のある人々に、宗教的なつながりを持つとされる動植物などの象徴のことです。20世紀の文化人類学者クロード・レヴィ＝ストロースは、トーテムを部族団結のための政治的な装置と捉えました。また、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトも「トーテムとタブー」という論文を発表しています。

語源

「トーテム」という言葉は、17世紀初頭に北米の先住民の言葉に由来します。フランス語の歴史書に記録されたアルゴンキン語族の「aoutem」がその起源とされ、18世紀後半には英語文献にも登場しました。当初は「守護精霊」と誤解されたこともありましたが、後にオジブワ族の言葉で「クラン」を意味する言葉であることが判明し、学術用語として用いられるようになりました。

定義

トーテムの定義は、研究者によって様々です。フランス国立科学研究センターの語彙集では、「祖霊が生まれ変わり、家族、部族、民族の標章となる具象物」と定義されています。一方、『ブリタニカ百科事典』オンライン版では、「ある血縁集団や個人に影響を与え、その標章や象徴として機能するもの」と定義されています。同一のトーテムと関係を持つ集団は「トーテム氏族」と呼ばれ、トーテムが先祖であると考えられている場合は「トーテム先祖」と呼ぶことがあります。

トーテミズム

トーテミズムとは、トーテムを信仰の対象とし、崇拝する信仰形態のことです。食のタブーとも結びついており、未開社会や古代文明に多く見られます。しかし、現代でも伝統や儀式としてトーテミズムを継承している地域も存在します。アメリカのインディアン部族では、氏族を「狼」や「亀」などのトーテムで区別し、トーテムから姓名を引用することもあります。これは、自然や超常現象から特別な力や加護を得たいという願望の表れと言えるでしょう。

世界的な事例

日本

日本の神道を含む自然崇拝では、「自分と似たもの」が生命力を与えると考えられていました。部族ごとに石、光線、動植物などがトーテムとして表され、異なる世界から来るマナを共有すると考えられていました。また、「われわれは○○の子孫である」という説明体系から、特定の動物を食べる、または食べないといったタブーが存在します。

南方熊楠は、トーテムを族霊と訳し、日本にもトーテミズムが存在すると主張しました。彼は、大物主が蛇のトーテムであり、三島の神池での鰻取りや祇園の氏子とキュウリのタブー、富士登山の際のコノシロのタブーを例に挙げました。また、トーテムの起源について、人が動植物に似た特徴を持つから、または、介在物が子を作ると考えられたから、という説を提唱しました。

古代中国

古代中国の殷王朝では、青銅器に動物のモチーフが施されており、これは祭政一致の神権政治が行われていた証拠とされています。これは世界で最も古いトーテミズムの一つと考えられています。

インド

宝蔵陀羅尼には、兎をトーテムとする描写があるようです。

アジア

アジアの諸民族には、トラをトーテムとする者が多く見られます。また、医療に携わる人々がトラをトーテムとし、トラのような格好で治療を行う例もあります。

オーストラリア

オーストラリアのアボリジニでは、「ドリーミング」と呼ばれるトーテムがあり、性行為ではなくドリーミングの介在によって子が生まれると信じられています。

欧州

イギリスでは、ガチョウ、ウサギ、ニワトリがトーテムとされたり、エンブレムに描かれる犬がトーテムの名残であると言われています。

アフリカ

ジンバブエでは、猿、牛、ライオンなどの動物がトーテムとされており、日常的にトーテムという言葉が使われています。

トーテムポール

トーテムポールは、北米の先住民族が制作する彫刻が施された標柱です。トーテムポールのモチーフには、制作者が属するクランのトーテムが選ばれることが多いですが、トーテムポール自体が信仰の対象ではありません。仏像のような偶像とは異なります。

まとめ

トーテムは、文化人類学や宗教研究において重要な概念です。世界各地で多様な形態が見られ、それぞれの社会や文化の中で重要な役割を果たしています。トーテムは単なる象徴ではなく、集団のアイデンティティや信仰、社会構造を理解する上で不可欠な要素と言えるでしょう。

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