ハシナガイルカ

ハシナガイルカ

ハシナガイルカ（学名：Stenella longirostris）は、クジラ目に属する小型のイルカの一種です。ハクジラ亜目のマイルカ科、特にスジイルカ属に分類されます。このイルカは、世界中の熱帯海域に広く生息しており、特に沿岸から離れた外洋域で見られます。

名前の由来

学名の種小名である「longirostris」は、ラテン語で「長い口吻（こうふん）」、つまり「長い口先」を意味しています。これと同様に、和名の「嘴長（はしなが）」も、その名の通りイルカのくちばしにあたる口吻が細長いことに由来しています。一方、英語では「Spinner Dolphin」と呼ばれています。この「スピナー」（回転するもの）という名前は、ハシナガイルカが水面から飛び上がる際に、体を激しく回転させるという非常に特徴的でアクロバティックな行動に由来しています。

分類と多様性

ハシナガイルカは、1828年に動物学者のジョン・グレイによって新種として記載されました。英語圏では、特に古い文献において、口吻の短いクライメンイルカ（Stenella clymene）と区別するために「Long-snouted Spinner Dolphin」と呼ばれることもあります。現在、一般的に認められているハシナガイルカの亜種は以下の4つです。

Eastern Spinner Dolphin (S. l. orientalis)：主に東太平洋の熱帯海域に生息。
Central American Spinner Dolphin または Costa Rican Spinner Dolphin (S. l. centroamericana)：同じく東太平洋の熱帯海域に生息。
Gray's Spinner Dolphin または Hawaiian Spinner Dolphin (S. l. longirostris)：ハワイ諸島周辺の中部太平洋で見られますが、これによく似たタイプは世界の他の海域にも分布しています。
Dwarf Spinner Dolphin (S. l. roseiventris)：タイランド湾で初めて確認された小型の亜種。

しかし、ハシナガイルカの形態や遺伝的な多様性は非常に大きく、これらの4つの亜種分類だけではその全貌を捉えきれないことが指摘されています。例えば、東太平洋には腹部が白い特徴を持つ交雑によると考えられるタイプが存在するなど、地域や個体によって様々なバリエーションが見られます。

形態

成体のハシナガイルカは、体長が約130センチメートルから235センチメートル、体重が約25キログラムから90キログラムになります。体色は全体的に濃い灰色をしていますが、喉や背中、尾びれにかけてはさらに色が濃くなる傾向があります。腹部は一般的にクリーム色がかった白色ですが、この部分の色の濃さや範囲には大きな個体差があります。最大の特徴である口吻は非常に細長く、先端が黒っぽいのが一般的です。胸びれや背びれも、同じくらいの体格の他のイルカと比較すると長めです。背びれは垂直にしっかりと立っていますが、東太平洋に生息する高齢の個体では、前方に傾いている場合も見られます。雄の個体は、尾びれの下側にコブ状の隆起があることで雌と区別することができます。ハシナガイルカはクジラ目の中でも特に形態の多様性が高い種の一つであり、一般的な説明だけではその多様性を十分に表現することは難しいとされています。

生態と行動

ハシナガイルカは、数頭の小さな群れで行動することもあれば、数千頭に及ぶ非常に大規模な群れ（スーパーポッドと呼ばれることもあります）を形成することもあります。彼らの最も有名な行動は、水面から飛び出し、自らの体を軸として激しく回転しながら水中へ戻る「スピニングジャンプ」です。この行動が英名の由来にもなっています。なぜこのような回転ジャンプを行うのか、その理由はまだ完全に解明されていませんが、いくつかの仮説があります。一説には、回転しながら飛び込む際に作る水中の大きな泡が、巨大な群れの中でエコーロケーション（反響定位）を行う際の目印となるという説や、単に遊びやコミュニケーションの一環であるという説が提唱されています。観察記録の中には、短時間に14回もの連続したスピンジャンプを行った例もあります。また、ハシナガイルカは船の船首波に乗って泳ぐ「ボウライディング」もよく行います。大西洋には、同じようにスピンするクライメンイルカがいますが、クライメンイルカはハシナガイルカほど頻繁に、また激しくスピンジャンプはしません。また、マダライルカとも似た特徴を持っています。

繁殖に関しては、妊娠期間は約10ヶ月です。性的成熟は、メスで4年から7年、オスで7年から10年で迎えると考えられています。寿命については、現時点では詳しいデータがなく不明です。

生息状況と人間との関わり

ハシナガイルカは世界中の熱帯の外洋域、主に南北回帰線の間に広く分布しています。広範囲に生息する種とされていますが、前述の亜種や形態の多様性とも関連し、地域によって異なるタイプが見られる傾向があります。全体の生息数については、正確な調査が進んでおらず不明です。東太平洋に生息する集団は、かつてまき網漁によるマグロ漁で混獲の犠牲となり、個体数が激減しました。特に1950年代以降、最大で200万頭ものハシナガイルカ、その多くは東太平洋の腹部が白いタイプが犠牲になったと推定されています。Eastern Spinner Dolphinに限っては、生息数が約半分にまで減少したとされています。現在でも混獲は課題ですが、全体としては比較的よく見られるイルカです。

ハワイ諸島では、ハシナガイルカが野生下および一部飼育下で研究の対象となっています。また、ハワイではドルフィンウォッチングやドルフィンスイミングの対象としても人気があり、多くの観光客がイルカを見るためにボートツアーを利用しています。イルカが休息のために利用する沿岸近くの海域へ、日に何度も船が行き来する状況が続いています。十分な規制がないまま、人間がイルカの休息地へ頻繁に接近する状況が続けば、イルカへのストレスが増大し、彼らの生態に悪影響を及ぼす可能性が懸念されています。これは、人間が自然への強い関心から結果的にその対象にダメージを与えてしまうという、「破壊的自然大好き症候群」の一例として、太平洋北西部のシャチの状況と比較されることもあります。

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