ブロイラー

ブロイラーとは

ブロイラーは、食肉用に特化した鶏の品種改良によって生まれた、短期間で急速に成長する鶏の総称です。主に商業目的で大量飼育されており、効率的な食肉生産を可能にしています。

概要

ブロイラーは、白色プリマスロックや白色コーニッシュなどの品種を交配・改良して作られました。その特徴は、生後5〜7週間という短期間で2〜3kgにまで成長する点です。この成長速度は、従来の鶏と比較して非常に速く、食肉としての出荷効率を大幅に向上させました。日本国内では、年間約7億羽ものブロイラーが出荷されています。

ブロイラーという言葉は、もともとアメリカの食鶏規格に由来します。オーブンなどで丸ごと炙り焼き（ブロイル）するのに適した若鶏を指す言葉でした。一方、旧東ドイツでは、鶏の種類に関わらず、グリルやロースト料理全般がブロイラーと呼ばれていました。

アメリカでは1923年にブロイラー産業が始まり、1949年以降に急速に拡大しました。日本では1950年代に採卵鶏の廃鶏や雄鶏の肉が利用されていましたが、1960年代にアメリカからブロイラー専用種が導入され、ブロイラー産業が急速に発展しました。近年、国内のブロイラー飼養戸数は減少傾向にありますが、1戸あたりの飼養羽数は増加しています。

育種改良の弊害

ブロイラーは、胸肉の生産量を重視した育種改良によって、過去50年間で成長率が大幅に向上しました。その結果、ブロイラーはわずか40〜50日で成鶏の大きさに達するようになりました。しかし、この急速な成長は、ブロイラーの健康に深刻な悪影響を及ぼしています。

通常、動物は必要なエネルギーに応じて食物を摂取しますが、ブロイラーは食欲や成長率を優先して育種されたため、飼料摂取量の調整機能を失っていると考えられています。このため、腹水症、浅胸筋変性症、歩様異常、歩行困難、脚弱、突然死症候群、蜂巣炎、脛骨軟骨形成不全、脊椎すべり症、細菌性軟骨壊死などの様々な疾患を引き起こし、肉体的苦痛を伴っています。2024年の報告によると、ブロイラーの死亡率は過去10年間で54％も増加しています。

研究によると、ブロイラーは通常の鶏よりも脚部骨格筋や脚骨への負担が大きく、歩行障害が多発します。正常な骨の形成過程では、軟骨が骨化するまでの間、支えの役割を果たしますが、ブロイラーでは軟骨に異常が生じ、骨が正常に形成されないため、奇形になることがあります。急激な成長の結果、ブロイラーの30%近くが体を支えるのが困難になり、3%はほとんど歩行不能になっています。跛行率は群れによってばらつきがありますが、非常に高い割合で発生しています。

鎮痛剤や抗炎症剤を用いた研究では、歩行障害のあるブロイラーが痛みを感じていることが示されています。これらの薬によって、ブロイラーの歩行能力が改善されることが確認されています。また、ブロイラーは痛みを緩和するために、薬入りの飼料を自ら選択することが実験で明らかになっています。

心臓への負担も大きく、約100羽に1羽が心臓疾患で死亡しています。イギリスでは、毎週100万羽以上のブロイラーが、育種による体の負担が原因で、屠殺前に心不全などで死んでいます。イギリスでは、ブロイラー種が家畜福祉規則に反するとして訴訟が起こされました。裁判所は、遺伝的な体質によって鳥が苦しむことが予想される場合は飼育すべきではないとしながらも、「成長の早い」生産自体は法律に違反しないとして訴訟を棄却しました。

育種改良は、ブロイラーの種鶏（親鶏）にも悪影響を与えています。ブロイラーの食下量は増加しましたが、種鶏は繁殖に悪影響を及ぼす脂肪の蓄積を避けるため、制限給餌や隔日給餌が行われています。そのため、種鶏は慢性的な飢えの状態にあり、ストレスから攻撃的になることがあります。

このような状況から、一部の国では成長の早いブロイラーの使用を制限する動きが出ています。欧州食品安全機関は、急激な成長を目的とした育種の廃止を推奨しています。デンマーク政府は、動物福祉の観点から成長の早い鶏の段階的な廃止に合意し、オランダでは、生鮮鶏肉市場が低成長ブロイラーで構成されるようになりました。

飼育方法

ブロイラーは、採卵鶏とは異なり、ほとんどが平飼いで飼育されています。鶏舎には、同じ日に孵化した雛だけを入れ（オールイン）、成長させてすべて出荷する（オールアウト）方法が一般的です。ブロイラー飼育において屋外エリアを設けている養鶏場はごく少数です。

種鶏孵卵

ブロイラーの雛を供給する種鶏場では、親鶏が飼育され、産まれた種卵は孵化場へ運ばれます。孵化場で雛が孵化すると、ブロイラー養鶏場へと移送されます。種鶏場では、雄鶏の蹴爪、趾、鶏冠が除去されます。これらは、足の怪我や視界の妨げを防ぎ、交配時の鶏の損傷を防ぐために行われます。麻酔は使用せず、ハサミや熱刃を用いて切断されます。これらの処置は、動物福祉上の問題として指摘されています。

孵化場では、孵化時期に1.5〜2日のばらつきがあるため、早く孵化した雛は長時間水を与えられず、その後の成長に影響を及ぼす可能性があります。また、自然孵化とは異なり、人工孵化では雛が母鶏から学習する機会がなく、行動的な問題が発生しやすいとされています。

入雛

清掃、殺虫、消毒された鶏舎に、購入した雛が入れられます。雌雄を分けて飼育する方法と、混合して飼育する方法があります。

飼育密度

ブロイラーは、合理化された大規模な密閉型鶏舎で飼育されるのが一般的です。飼育密度が低いほど、鶏は自由に動き回ることができ、歩行障害も少なくなります。しかし、単位面積当たりの生産性を高めるため、通常は高い飼育密度で飼育されます。タイでは飼育密度が39kg/平方メートル以下に制限されていますが、日本には明確な規制はなく、平均飼育密度は16〜19羽(47kg)/平方メートル、最大で約22羽(59kg)/平方メートルに達します。

換気管理

鶏舎内の空気は換気扇で管理されます。高密度の鶏舎では、鶏の排泄物から発生するアンモニアや、ホコリ、二酸化炭素などで空気環境が悪化しやすいため、換気が非常に重要です。鶏は全身に気嚢という呼吸器官を持っており、空気環境の影響を受けやすいため、換気管理はブロイラーの健康を維持する上で不可欠です。

温度も換気扇でコントロールされます。ブロイラーは、雛の段階では寒さに弱く、また高温にも弱いため、適切な温度管理が重要です。

ワクチンと抗生物質

ブロイラーには、出荷までに数十回ものワクチンが投与されます。また、抗生物質も使用されています。2015年から2017年の調査では、国内の鶏肉の約6割から抗生物質耐性菌が検出されています。

光線管理

照明時間を長くして摂食行動を活発にすることで、ブロイラーの成長を促進できると考えられていますが、必ずしも効果的ではないという報告もあります。長時間の点灯は動物福祉上の問題があるため、暗期を設けることが推奨されています。しかし、日本では多くの養鶏場で暗期が設けられていません。EUやオーストラリアでは、最低でも6時間以上の暗期を設けることが義務付けられています。

餌切り

出荷前日には、消化管内容物を空にするため餌切りが行われます。これは屠殺場での糞便汚染リスクを減らす目的で行われます。しかし、餌切り時間が長すぎると腸が破れやすくなり、細菌汚染のリスクが増加します。

捕鳥作業

出荷する鶏をカゴに入れる捕鳥作業は、一般的に鶏の片足を掴んで行われます。これは動物福祉上の問題点として指摘されています。鶏を逆さまに吊り上げてカゴに押し込む作業は、鶏に怪我やストレスを与える可能性があります。ブロイラー育種大手のガイドブックでは、鶏を両足で持つか、両手で胸を持つ方法が推奨されています。

海外では、両手で鶏を捕獲する方法や、鶏を立てた状態で捕獲するなどの方法が導入されています。EUでは、鶏を足で持ち上げることを禁止する規則があります。オランダでは、捕獲時に鶏の負傷が一定割合を超えると罰金が科せられます。しかし、日本では捕鳥作業に関する明確な規則はありません。

機械による捕鳥は、鶏のストレスや怪我を減らすことができますが、初期導入コストが高く、普及が進んでいません。

出荷

ブロイラーは、生後51〜55日、体重2.5〜3.5kgで出荷されます。出荷前には、休薬飼料を与え、照明を24時間点灯することが推奨されています。

趾蹠皮膚炎 (FPD)

ブロイラーは、過密飼育のために、敷料が汚れて足の裏（趾蹠）に細菌が侵入し、炎症を起こすことがあります。これは趾蹠皮膚炎と呼ばれ、ブロイラーに痛みやストレスを与え、歩行困難をもたらします。欧米では、趾蹠皮膚炎は動物福祉の指標の一つとして考えられています。

日本国内の農場では、ほとんどの鶏群で趾蹠皮膚炎が観察されており、その発生率は非常に高いです。品種改良による成長速度も、趾蹠皮膚炎の発生に影響を与えることがわかっています。趾蹠皮膚炎を患った鶏の足は「もみじ」などの名称で販売されていますが、法律上は廃棄されるべき病変部です。

動物福祉に関する規制・指針

世界動物保健機関 (OIE)

OIEは、ブロイラーの動物福祉に関する基準を定めており、連続した暗期の確保、適切な飼育密度、生産性だけでなく福祉や健康も考慮した遺伝系統の選択などを求めています。日本もOIEの基準に批准しており、国内での周知が求められています。

[欧州連合]

EUでは、ブロイラー保護の最低限の規則を定め、照明時間の制限、飼育密度の制限、などを定めています。これらの規則に対応するため、加盟国は国内法を整備することが求められています。

日本

日本では、農林水産省がアニマルウェルフェアに対応したブロイラーの飼養管理指針を普及させていますが、法的な拘束力はありません。同指針では、適切な飼育密度や暗期の重要性が示されています。

動物福祉に関する企業の取り組み

海外では、マクドナルドなどの大手企業が、ブロイラーの動物福祉基準を導入しています。これらの基準では、止まり木の設置、飼育密度の制限、成長速度の遅い品種の採用などを求めています。200以上の企業が、ブロイラーの飼育環境や屠殺方法に関する動物福祉基準を公表しています。

主な生産国

ブロイラーの主な生産国は、ブラジル、中国、タイ、アメリカなどです。日本では、九州地方南部と東北地方北部が主要な産地です。

参考文献

鶏病研究会「ブロイラーの育種改良の変遷と鶏病の歴史」『鶏病研究会報』第53巻第4号、2018年、203-213頁
木本武雄, 藤田和夫「合衆国ブロイラー産業に於けるインテグレーション」『日本畜産学会報』第33巻第6号、1963年、435-440頁
玉置文作「IIIアメリカ農業の一端にふれて」『日本畜産学会西日本支部報』第3巻、1960年、11-14頁

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