ベルガモット

ベルガモット：芳醇な香りで世界を魅了する柑橘

ベルガモット(Citrus × bergamia)は、ミカン科ミカン属に分類される常緑低木です。樹高は2～5メートルほどに成長し、イタリアを主産地とする柑橘類として知られています。遺伝子解析の結果から、ブンタン、マンダリンオレンジ、シトロンといったミカン属の3種が交雑して生まれたと考えられており、レモンやダイダイとの近縁性も示唆されています。

ベルガモットの名前の由来

ベルガモットの名前の由来には諸説あります。トルコ語で「梨の王」を意味する「Beg armudi」が語源とする説や、イタリアの都市ベルガモ、あるいはスペインのベルガに由来するという説があります。後者の説には、コロンブスがカナリア諸島でベルガモットを発見し、ヨーロッパに伝えたという言い伝えが関連付けられています。

興味深いことに、シソ科にも同名の植物「ベルガモット(Monarda didyma、和名：タイマツバナ)」が存在します。これは葉がベルガモットの精油とよく似た香りを持つため、同じ名前がつけられたものであり、分類学的には全く異なる植物です。

ベルガモットの形態

ベルガモットの葉は、他の柑橘類と同様に光沢がありますが、やや細長く、先端が尖っているのが特徴です。夏には、芳香のある白い花を咲かせます。果実は洋梨型または球形で、表面にはデコボコが見られます。未熟な果実は緑色ですが、熟すにつれて黄色から橙[[色]]へと変化します。

ベルガモットの栽培

ベルガモットは通常、ダイダイ（ビターオレンジ）を台木として接木によって栽培されます。暑さには比較的強いですが、寒さには弱いため、氷点下にならない気候が栽培には必要です。日当たりがよく、灌漑設備のある南向きの山の斜面が適地とされています。主要な産地はイタリアのカラブリア州で、コートジボワールのサッサンドラ地方でも栽培されています。

ベルガモットの精油：香り、成分、注意点

ベルガモットの精油は、果皮から抽出されます。収穫は、果皮が緑色の11月から黄色く熟す3月頃に行われ、圧搾法、あるいはコールドプレス法によって抽出されます。得られる精油は黄色をしており、他の柑橘類の精油と大きく異なる成分組成を持っています。

多くの柑橘類精油の主成分がd-リモネンであるのに対し、ベルガモット精油の主成分はl-リナロールとl-酢酸リナリルです。収穫時期によってこれらの比率は変化し、収穫が遅れるほど酢酸リナリルの比率が高くなります。

しかし、ベルガモット精油には、ベルガプテンやベルガモチンなどのフロクマリン誘導体も含まれています。これらは皮膚に付着した状態で紫外線に当たると、光毒性反応である「ベルガモット皮膚炎」を引き起こし、色素沈着が生じる可能性があります。そのため、皮膚に直接使用する用途には、ベルガプテンを除去したBGF（ベルガプテンフリー）やFCF（フロクマリンフリー）の精油が用いられます。

また、枝や葉を水蒸気蒸留することで、「プチグレン・ベルガモット」と呼ばれる精油も得られます。

ベルガモットの果肉と用途

ベルガモットの果肉は、非常に強い苦味を持つため、生食には向きません。これは、他の柑橘類に比べて苦味成分であるフラボノイド配糖体の含有量が多いことが原因です。

ベルガモットの用途として最も有名なのは、アールグレイ紅茶の香料です。ベルガモットの精油で紅茶を着香することで、独特の爽やかな香りが生まれます。そのフレッシュな香りは、香水にも広く用いられており、特にオーデコロンやシプレ系の香水の調合に欠かせない存在となっています。

参考文献

ピエール・ラスロー著 『柑橘類の文化誌』 寺町朋子訳、一灯舎、2010年
ヘレナ・アトレー著 『柑橘類と文明』 三木直子訳、築地書館、2015年

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