ミスラ

ミスラ：契約、友情、太陽の神

ミスラは、古代インド・イラン神話に登場する神であり、その起源はインド・イラン共通時代にまで遡ります。元来は「契約」を意味し、インド神話のミトラ、イラン神話のミスラ、そしてギリシア・ローマのミトラスなど、地域によって異なる名前で呼ばれましたが、その根底には共通の神格が存在しました。

インドのミトラ

インド神話では、ミトラは「盟友」を意味し、友情や友愛の守護神とされました。また、太陽[[神]]としての側面も持ち、『リグ・[[ヴェーダ]]』では、太陽[[神]]群の一柱として、天空を駆ける姿が描かれています。さらに、契約を祝福する神として、契約の履行を監視するヴァルナ神と表裏一体の関係にあるとされました。しかし、後世のインド神話では、その活躍はあまり見られなくなります。

イランのミスラ

イランにおけるミスラは、契約の神としての側面を持ちつつ、次第に友愛や太陽の神としての性格を強めました。ゾロアスター教においては、司法神、光明神、戦士・軍神、そして牧畜の守護神として崇められました。当初は、アフラ・マズダーと一体の存在でしたが、後に中級神へと格下げされました。しかし、その重要性は失われず、司法神としての性格が特に強調され、千の耳と万の目を持つ監視者として、死後の審判も司るとされました。

マニ教のミスラ

マニ教では、ミスラ（ミフル神）は、言語によって異なる役割を与えられました。パルティア語では「第三の使者」、中世ペルシア語では「生ける霊」と同一視されています。

曜日名への影響

ミスラ神の光明神としての側面が強調されるにつれて、太陽と同一視され、中世ペルシア語では、日曜日をミフルと呼ぶようになりました。この呼び名は、ソグド語にも借用され、日本にも伝わり、平安時代の具注暦には、日曜日に「密」「みつ」「みち」などと朱書きされるようになりました。

他宗教への影響

ミスラの信仰は、ペルシャ帝国期に小アジア、シリア、メソポタミア、そしてギリシアやローマに伝播しました。ギリシア・ローマではミトラス（Mithras）と呼ばれ、太陽[[神]]、英雄神として崇拝されました。ミトラス教は、密儀宗教として1世紀後半から4世紀半ばまでの帝政ローマとその属州で広く信仰され、善悪二元論や終末思想を説きました。ミトラス教の最大の祭儀は、12月25日に行われる太陽の復活を祝うもので、キリスト教のクリスマス（降誕祭）の原型になったと言われています。また、弥勒菩薩（マイトレーヤ）の語源はミスラにあるという説もあり、救世主的な性格はミスラから受け継がれたものと考えられています。さらに、ユダヤ教の天使メタトロンもミスラを起源とする説があります。メタトロンは神の住む第七天に住み、神に近い存在とされ、ミスラと同様に「契約の天使」「丈高き者」「万の目を持つ者」「太陽[[神]]」といった性格を備えています。

ミスラは、古代から中世にかけて、様々な文化や宗教に影響を与え、その信仰は多様な形で受け継がれていきました。その起源は古いですが、現代においても、その影響は様々な形で感じることができます。

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