アフラ・マズダー

アフラ・マズダー：ゾロアスター教の最高神

アフラ・マズダーは、ゾロアスター教において崇拝される最高神です。宗教画では、威厳に満ちた王者の姿で、有翼の光輪を背景に描かれることが多いです。その名は「智恵ある神」を意味し、善と悪を峻別する正義と法の神として、絶対的な存在感を持ちます。アフラは天空を、マズダーは光を表す言葉であり、太陽神とも解釈されています。彼の娘は女神アールマティです。

ゾロアスター教の世界観では、宇宙の歴史は善神スプンタ・マンユと悪神アンラ・マンユの壮大な戦いの歴史と捉えられています。アフラ・マズダーは、世界の終末、すなわち最後の審判において、善と悪を完全に分離する役割を担います。この点において、彼は善悪の対立を超越した、絶対的な裁きの権威者と言えるでしょう。

アフラ・マズダーは、ゼーリジュ、ニーラフ、ナーンギーシュ、タルマド、ヘシュム、セビーフ、ビーサジュという七つの悪魔を、七つの光で包囲し、それぞれにカイヴァーン（土星）、オフルマズド（木星）、バフラーム（火星）、シェード（太陽）、ナーヒード（金星）、ティール（水星）、マーフ（月）という名を与えました。これが、天体の運行、月の満ち欠け、星の輝きの起源とされています。

中世以降のゾロアスター教の教義では、アフラ・マズダーはパフラヴィー語でオフルマズドと呼ばれ、アムシャ・スプンタの筆頭であるスプンタ・マンユと同一視される傾向があります。この場合、古典的な教義におけるアフラ・マズダーの役割、つまり善神と悪神に対立する絶対者の役割は、ズルワーンという神が担うことになります。

ペルシアの七曜神において、アフラ・マズダーは木曜日（木星）を司り、バビロニア神話のマルドゥク、ギリシャ神話のゼウス、北欧神話のトールといった他の文化の神々と対応関係にあるとされています。また、「光輝き、純粋で、甘く香り、善を成す」といった属性も持ち合わせています。

アフラ・マズダーの起源と影響

アフラ・マズダーの起源は、インド・イラン共通の神話に登場する最高神ヴァルナに遡ります。ザラスシュトラによる宗教改革を経て、宇宙の理法を体現する存在へと昇華されました。興味深いことに、「アフラ」とインド神話における「アスラ（阿修羅）」は語源的に同一であるとされます。アフラ・マズダーに対立するダエーワも、インド神話のデーヴァとアスラの関係と関連付けられています。古代インド・イラン共通の神話時代には、ヴァルナは契約の神ミトラと並び、最高神としてアスラ族やアーディティヤ神群を代表する存在でした。

さらに、ヒンドゥー教の太陽神あるいはアスラ王であるヴィローチャナから、火と太陽の属性を受け継いだとする説もあります。ゾロアスター教が火を聖なるものとみなすことを考慮すると、この説は非常に興味深いものです。真言密教の大日如来も、ヴィローチャナを起源とする説があり、アフラ・マズダーは大日如来の形成に大きな影響を与えた可能性が示唆されています。

現代への影響

アフラ・マズダーの名は、かつてゼネラル・エレクトリックの電球ブランドであったマツダランプ、そして現在も続く自動車メーカーのマツダの社名「Mazda」の由来となっています。これらは、アフラ・マズダーの持つ「光」のイメージと関連していると考えられます。

参考文献

青木健　『ゾロアスター教ズルヴァーン主義研究―ペルシア語文献「ウラマー・イェ・イスラーム」写本の蒐集と校訂』、刀水書房、2012年
メアリー・ボイス『ゾロアスター教 - 三五〇〇年の歴史』山本由美子訳、筑摩書房、1983年
伊藤義教『ゾロアスター研究』岩波書店、1979年
バンヴェニスト、ニョリ『ゾロアスター教論考』前田耕作編・監訳、平凡社、1996年
* 岡田明憲『ゾロアスター教 - 神々への賛歌』平河出版社、1982年

もう一度検索