リンゴ事件

リンゴ事件（水原リンゴ事件）

リンゴ事件は、1933年（昭和8年）10月22日、東京六大学野球の早稲田大学対慶應義塾大学の試合中に発生し、戦後にまで影響を残した大規模な乱闘事件です。この事件は、1931年の「八十川ボーク事件」と並び、東京六大学野球の歴史における二大不祥事として数えられています。「水原リンゴ事件」とも呼ばれます。

事件の背景と経過

事件が起きたのは、1933年秋季リーグ戦の早慶3回戦でした。この試合は、両チームが点を取り合う激しい展開となり、8回終了時点で早稲田が8対7と1点をリードしていました。

しかし、試合中に審判の判定を巡り、相次いで問題が発生しました。

2回: 早稲田の悳宗弘投手が投げた球が一度ストライクと宣告されましたが、慶應の腰本寿監督と打者である井川喜代一選手の抗議によってデッドボールへと判定が変更されました。
8回: 慶應の岡泰蔵選手による二塁への盗塁判定を巡っても再び騒動に発展します。当初セーフとされた判定が、早稲田の遊撃手である高須清選手の抗議を受けてアウトに変更されました。これに対し、慶應の三塁ベースコーチを務めていた水原茂選手が塁審に詰め寄り、激しい抗議を行いました。

度重なる判定トラブルと抗議により、スタンドの両校応援団は著しく興奮していました。試合は9回表に進み、三塁の守備についた水原選手へ、先の抗議態度に反発した三塁側早稲田応援席から、ゴミとともにリンゴの芯（一説には梨）などが投げ込まれました。水原選手がこれを、守備の体勢からバックトスのように応援席へ投げ返したことが、早稲田側をさらに激怒させる決定打となりました。

乱闘の発生と収束

試合はその後、9回裏に慶應が2点を奪い、9対8で逆転サヨナラ勝ちを収めました。しかし、試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、早稲田応援団の一部が慶應側のベンチや応援席になだれ込み、大規模な乱闘が勃発しました。この混乱の中、慶應応援団の象徴である指揮棒が奪われるなどの事態が発生しました（この指揮棒は戦後に満洲で発見されたという）。収拾がつかなくなり、最終的には警官隊が出動して騒ぎは鎮圧されました。

事件後の対応と影響

事態収束後、両校間では「水原謹慎」「早稲田謹慎」といった相互非難や要求が応酬されましたが、最終的に早稲田大学野球部長の辞任という形で決着が図られました。なお、この事件から間もない12月3日、水原選手が麻雀賭博容疑で検挙され、翌日には野球部を除名されるという出来事がありました。

この一件が決定的な契機となり、それまで自由だった早慶戦におけるチームおよび応援団のベンチ・応援席位置が、早稲田は一塁側、慶應は三塁側へと固定され、現在に至っています。また、東京六大学野球史においては、1931年の慶大対明大戦で起きた「八十川ボーク事件」と並ぶ、球史に残る重大な不祥事の一つとして語り継がれています。

備考

2015年には早稲田大学応援部OBによって、この試合を記録した16mmフィルムが発見され、NHKアーカイブスに提供されました。乱闘の様子は映っていないものの、映像内のスコアボードなどから当時の試合の状況を確認することができます。
戦前から活躍した漫才コンビ、エンタツ・アチャコも、この試合を観戦した際の出来事をネタにした漫才を披露しています。彼らが舞台出演前に柳家金語楼からチケットをもらって観戦したものの、舞台本番のために途中で球場を離れたため、ネタの中に乱闘の描写はないとされています。

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