ローフード

ローフード（英語: raw food）、または生食（せいしょく）、リビングフード（英語: living food）とは、『酵素を豊富に含む食品を摂ることで体に良い影響が得られる』という考え方に基づき、生の、あるいは加熱や加工を最低限に抑えた食材を中心とする食事法、および食品そのものを指します。

科学的根拠への疑問

ローフードの根幹にある「食物から酵素を摂取することが健康に不可欠である」という考え方は、科学的な観点から疑問視されています。

ヒトは生命活動に必要な消化酵素などを体内で自ら生成しており、外部から酵素を摂取する必要はありません。
植物に含まれる酵素は、植物自身の成長や代謝のために機能するものであり、ヒトの消化を含む体内機能に直接的な効果をもたらすことはありません。
仮に食品から酵素を摂取したとしても、大部分は胃の強い酸性環境で不活性化され、栄養素の吸収が行われる腸まで到達することはほとんどないことが、基本的な生物学の知識から明らかです。

このように、食物酵素の摂取が体に良いとする考えは、科学的な根拠に乏しく、一部では迷信であると指摘されています。医学専門家の間でも広く受け入れられているものではなく、むしろ不均衡な食生活による健康問題のリスクを指摘する研究結果も存在します。

実践方法と種類

ローフードの実践形態は様々で、主に以下の種類があります。ローフーディズムは、動物性食品を一切摂らないローヴィーガニズムと混同されがちですが、生であれば動物性食品も摂取する形態も存在します。

ローヴィーガニズム: 最も一般的な形態で、動物性製品を完全に排除し、植物性の生食材のみを摂取します。果物、野菜、スプラウト、海藻、発酵食品（一部）、ナッツ類、種子類、豆類、発芽させた穀物などが中心です。ナッツミルクやナッツバター、ドライフルーツ、特定の調味料（味噌、生醤油、梅酢など）も利用されます。有機栽培や天然素材にこだわり、化学添加物や加熱殺菌処理された食品を避ける人もいます。中には果物のみを食べるローフルータリアンや、生食材を絞ったジュースのみで過ごすローリキッダリアンといった厳格な実践者もいます。
ローベジタリアニズム: 動物性食品のうち、乳製品や卵は許容しつつ、基本的には植物性の生食材を中心に摂取します。
ローアニマルフード・ダイエット: 生で摂取可能な動物性食品（肉、魚介類など）と植物性食品を組み合わせる形態です。ただし、生の穀物や豆類は消化不良や毒性の問題から避けられるのが一般的です。肉や魚は、放し飼いや自然な飼育方法で育てられた動物、養殖でない天然のものが好まれます。

ローフード支持者は、食生活において以下のような特徴が見られます。

スプラウトの活用: 発芽したばかりのスプラウトは「食物酵素が豊富で生食に適している」と考えられ、積極的に食事に取り入れられます。
発酵食品の活用: 微生物由来の酵素を含むとされるザワークラウトや、発酵飲料であるリューベラクなどが用いられます。
ナッツや種子類の前処理: 生のナッツや種子に含まれるとされる酵素抑制物質を減らすため、一晩水に浸してから食することが推奨されることがあります。
専用器具の利用: ミキサー、フードプロセッサー、ジューサー、食品乾燥機（デハイドレーター）などが調理に頻繁に使用されます。
スーパーフードやサプリメント: 栄養価が高いとされる特定の食材（アサイー、ケール、スピルリナなど）や、クコの実、マカ、ヘンププロテインなどのサプリメントを積極的に摂取する人もいます。

報告されている効果

一部の研究では、肥満者がローフード食を短期間実践した際に、血圧や肥満の改善が見られたという報告があります。また、長期間の実践者において血中ビタミンA濃度が正常範囲であったという例も報告されています。

問題点とリスク

ローフードの実践には、いくつかの潜在的な問題点やリスクが指摘されています。

食中毒: 生の肉や魚介類は、腸管出血性大腸菌などの細菌や寄生虫（アニサキス、ジストマなど）による食中毒のリスクを伴います。生野菜やフルーツも、洗浄が不十分な場合、危険な微生物に汚染されている可能性があります。市販の刺身のように適切に冷凍された場合は寄生虫は死滅しますが、細菌やウイルスは生存し得ます。
栄養素の吸収・利用効率: 加熱調理によって特定のビタミン（例: β-カロテンからのビタミンA）や抗酸化物質（例: トマトのリコピン）の体内での利用効率や吸収力が増加する場合があります。
健康への影響: ローフード食は、特に厳格かつ長期間にわたって実践された場合、健康上の問題を引き起こす可能性があります。ある調査では、45歳以下の女性実践者の約3割に無月経の症状が見られました。長期的な継続は推奨されない場合もあります。
子どもの成長への影響: 成長期の子どもにローヴィーガン食などの偏ったローフード食を実践させた結果、タンパク質やカルシウムなどの栄養素が不足し、成長障害が生じ、児童虐待と見なされた事例が海外で報告されています。

これらのリスクを回避するためには、ローフードを実践する際に栄養バランスに十分配慮し、必要に応じて専門家の指導を仰ぐことが重要です。

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