中将姫

中将姫：曼荼羅を織り上げた伝説の女性

中将姫は、奈良の當麻寺に伝わる伝説上の女性です。天平19年（747年）に生まれ、宝亀6年（775年）に亡くなったと伝えられています。彼女は、藤原鎌足の曾孫にあたる藤原豊成と、妻の紫の前の間に生まれた一人娘でした。両親は長らく子宝に恵まれず、桜井の長谷寺の観音に祈願した末、中将姫を授かったとされています。

しかし、姫が5歳の時に母親は亡くなり、6歳の時には父親が照夜の前を後妻に迎えました。継母との関係は良好ではなく、中将姫は様々な虐待を受けていました。それでも、彼女は美貌と才能に恵まれ、9歳の時には孝謙天皇に召し出され、琴の演奏で賞賛されました。

13歳で三位中将の位に就いた中将姫でしたが、14歳の時、父親が諸国巡視に出かけた隙に、継母は家臣に姫の殺害を命じます。しかし、家臣たちは、亡き実母への供養を怠らず、ひたすら極楽浄土を祈る姫の姿に心を打たれ、殺害できませんでした。代わりに、雲雀山の青蓮寺に姫を匿います。

翌年、父親に発見され連れ戻された中将姫は、『称讃浄土佛摂受経』1000巻の写経を完成させます。16歳で淳仁天皇から後宮に入るよう求められますが、これを断り、二上山の山麓にある當麻寺に入り、尼となりました。そして、仏行に励んだ結果、一夜にして蓮糸で『当麻[[曼荼羅]]』（『観無量寿経』の曼荼羅）を織り上げたという伝説が残っています。

29歳で亡くなった中将姫は、阿弥陀如来をはじめとする二十五菩薩の来迎を受け、生きたまま西方極楽浄土へ行ったと伝えられています。

中将姫を取り巻く歴史と伝承

中将姫の生涯は、当時の政治情勢とも複雑に絡み合っています。757年の橘奈良麻呂の乱に際しては、兄の藤原乙縄が左遷され、父豊成も右大臣を罷免されるなど、激動の時代を生きていました。また、中将姫の母については、藤原百能という人物ではないかという説もあります。

中将姫は婦人病に苦しんだという伝承もあり、そのため、同じ悩みを持つ女性から厚い信仰を集めました。また、ツムラの創業者である津村重舎が、中将姫をかくまったお礼として薬の製法を教えられたという伝承も残っています。

さらに、中将姫が一夜で織り上げたという『当麻[[曼荼羅]]』の蓮糸は、香芝市別所の蓮池の蓮から作られたという伝承や、高田川を使って移動し、當麻寺に入ったという伝承など、様々な逸話が各地に残されています。

『当麻[[曼荼羅]]』自体も、絹の糸で織られており、唐から持ち込まれた可能性も指摘されています。中将姫の称号についても、「中」が「神と人との仲立ち」という意味を持つという説など、様々な解釈があります。

中将姫を題材とした作品

中将姫の物語は、古くから人々の心を捉え、謡曲、浄瑠璃、歌舞伎、小説、アニメーション映画など、数多くの芸術作品に題材として用いられてきました。代表的な作品としては、世阿弥作の謡曲『当麻』『雲雀山』、近松門左衛門作の浄瑠璃『当麻中将姫』、折口信夫（釈迢空）著の小説『死者の書』、川本喜八郎監督の人形劇アニメ映画『死者の書』などが挙げられます。これらの作品を通して、中将姫の悲劇的な生涯と、奇跡の曼荼羅創造の物語は、現代においても人々の心に深く響き続けています。

まとめ

中将姫は、数々の苦難を乗り越え、曼荼羅を織り上げたという奇跡の物語を持つ伝説上の女性です。その生涯は、歴史的背景や、様々な伝承と深く結びつき、多くの芸術作品にインスピレーションを与え続けています。彼女の物語は、信仰、苦難、そして奇跡といった、人間の根源的なテーマを私たちに問いかけ続けています。

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