五斗米道

五斗米道について

五斗米道（ごとべいどう）は、後漢末に道教の一派として成立した教団です。この教団は、太平道とは時期を同じくして生まれ、張陵（または張道陵）が中心人物となり、蜀郡の成都近郊に位置する鶴鳴山で設立されました。教団の成立時には『老子道徳経』が重要な教典とされ、信者たちはこの教義に基づいて様々な儀式を行っていました。

歴史的背景と展開

五斗米道の歴史は、その創始に関する異なる文献から多角的に理解されます。魚豢の『典略』には張脩が教団を立ち上げたと記載されていますが、その記述には異論も存在し、裴松之は張脩ではなく張衡が指導者であったと主張しています。しかし、歴史の流れの中で、秋の乱や黄巾の乱においては張脩がバ郡の巫として一時的に宗教的な勢力を持ったことが示唆されており、これも彼の地位を証明する材料となっています。

五斗米道の名は、信者が寄進した五斗の米に由来し、その後、張魯が張陵を「天師」として崇めたことから「天師道」と呼ばれるようになりました。さらに、近代では「正一教」として知られる教団へと発展しています。

教団は、呪術的な儀式を通じて信者の病気を治療し、流民には無償の食料を提供する場を設けていました。悪行を働いた信者には寛容な姿勢を見せ、三度までは許し、四度目には軽作業を課すことで、信者を組織的に成長させていきました。信者は「鬼卒」と呼ばれ、階級制度が確立されており、祭酒、治君、師君のような叙位が存在しました。

このようにして五斗米道は、三国時代直前には漢中において強固な宗教王国を築いていましたが、215年には曹操の侵攻を受け、教団は一時的にその勢力を失います。曹操による強制的な信者の移動は、教団の祭酒制度を脆弱化させ、五斗米道は存続の危機に陥ります。しかし、その後の西晋の崩壊や東晋の成立を経て、教団は鄱陽郡の龍虎山へと拠点を移し、存亡の局面を乗り越えていきます。

教団の影響力

東晋時代には孫恩や盧循といった反乱が発生し、五斗米道はこれらの動乱の中で強い影響力を持つようになりました。反乱の鎮圧に成功し、東晋の権力をより一層強化した劉裕は、最終的に南朝宋を樹立します。この時期、五斗米道はその教義や組織形態を広め、社会的な存在感を強めることとなります。

教義と儀式

五斗米道の教義は、主に病気治療に焦点を当てたもので、ヒトが病気になる理由として、宇宙を支配する神々が犯した罪に対する懲罰であると考えられます。病人は一時的に静室に閉じこもり、過去の行為を悔い、直筆の祈祷書や誓約書を作成することが求められます。この祈祷は、天の神、地の神、水の神にそれぞれ捧げられ、病気回復を図ります。これらの儀式は、教団の信者たちがどのように信仰を持ち、生活を支えていたかを物語っています。

五斗米道は単なる宗教団体ではなく、当時の社会情勢や信者の生活に深く根付いた組織として、多大な影響を及ぼしました。その後、教団の流れを受け継ぐものとして正一教が発展し、近年まで続く宗教的な伝統となっています。

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