公方

公方（くぼう）とは

公方は、前近代の日本で国家に関する公的な存在を象徴する言葉であり、特に古い時代の天皇や朝廷、そして鎌倉時代や室町時代の将軍にルーツを持つ言葉です。この称号は、室町時代の後期に足利将軍家の支配者が用いることが多く、公方の呼称は公方号とも呼ばれます。また、将軍や公方に対する敬称として「御所号」が使われました。

公方号の誕生

「公方」という称号の由来は、中国における「公」の概念に関連しています。日本の文脈では、「公」は民と国家を合わせた意味から、次第に民を含まない国家を扱う領域を示す表現へと変化しました。この言葉は「滅私奉公」や「公私混同」といった表現にも見られるように、公共の意味合いが強い言葉となりました。日本の古代では、天皇を「おおやけ」と指し示すための表現として「公家」や「公方」との呼び方が定着し、特に平安時代後期以降は、国家の統治権を強調するために使用されるようになりました。

鎌倉時代に入ると、上下の関係性が変化し、私的な所領が拡大していく中で、特に本所（出資者である寺社や公家、武士層）が土地の管理権を強め、「公方」と名乗る例が見られるようになりました。これは、朝廷の権力が相対的に低下していく中での変化でした。さらに、鎌倉幕府では、執権北条氏に対抗する形で皇族将軍を「公方」と称する制度が整えられ、これが公方という称号の公的な地位を確立させることになりました。

室町幕府の公方

南北朝時代に足利尊氏が朝廷から公方号を授かった記録がありますが、尊氏はこの名を容易に受け入れることはできませんでした。彼は甲冑を身に付けられないことを理由に、公方号の辞退を希望しましたが、朝廷はこの称号を撤回することができず、尊氏は名を預かる形となりました。残念ながら、足利義詮の時代にはこの公方号はほとんど使用されなかったものの、3代将軍義満以降は再び積極的に使用され始めました。

その後、「公方」という言葉は、将軍や関東の足利氏一族によって世襲され、鎌倉公方、古河公方、堀越公方そして小弓公方といったさまざまな家系に分かれていきました。これらの家系は、それぞれの地域で異なる背景を持ちつつ、公方としての役割を果たすことになります。

江戸時代の公方

江戸時代になると、将軍の権限が強化され、「公方」という称号は徳川将軍を意味するものとして定着しました。そのため公方は朝廷の代表的存在となり、特に征夷大将軍の地位にある者が使用する敬称となりました。さらに、公方は時として庶民から揶揄された名前やあだ名と結びついて広まることもあり、徳川綱吉は「犬公方」と呼ばれるようなあだ名がつけられたり、徳川家重は「小便公方」と揶揄されたりしました。このように、歴代の公方たちは、さまざまな形でその存在感を示していました。

結論

公方という称号は、前近代の日本社会において国家の一体性を象徴していた重要な役職であり、特に室町時代以降は将軍と密接に結びついています。その変容を通じて、国家と個人の関係がどのように発展していったのかを垣間見ることができ、歴史的な背景が公方の名にどのように影響を与えたかを考察することが重要です。

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