地誌学

地誌学とは

地誌学（regional geography）は、地理学の一分野であり、特定の地域を対象として、その地域の持つ独自の性格を総合的に理解することを目的としています。この学問は、系統地理学の研究成果を基盤とし、地域構造や地域性を解明することを目指します。地誌学は、特殊地理学、地域地理学、地方地理学とも呼ばれることがあります。

地誌学の歴史

地誌の記録は古代から存在していましたが、科学としての地誌学が確立したのは19世紀に入ってからです。近代地誌学は、アレクサンダー・フォン・フンボルトやカール・リッターによって創始され、その後、フェルディナント・フォン・リヒトホーフェン、フリードリヒ・ラッツェル、ポール・ヴィダル・ドゥ・ラ・ブラーシュらによって発展しました。

アルフレート・ヘットナーは、地理学の本質として地域的観点を重視し、地域の性格の考察、すなわち地域構造の解明を重要視しました。ヘットナーやリチャード・ハーツホーンは、地誌学を地理学の中心に位置づけていました。一方で、オットー・シュリューターは景観論を提唱し、景観に大きな影響を与える地域の構成要素に着目すべきと主張しました。

伝統的な地理学において地誌学は中心的な役割を果たしていましたが、その個性記述的で非科学的であるという批判や計量革命の影響により、地誌学は一時的に衰退しました。しかし、1970年代後半から英語圏やフランス語圏を中心に、新しい地誌学（new regional geography）として復興の動きが見られるようになりました。この新しい地誌学は、社会[[科学]]の理論を導入し、地域を多角的に説明しようとするものです。

系統地理学との違い

地理学には、系統地理学的な見方と地誌学的な見方の二つが存在します。ヘットナーは、地域の構造を明らかにし、その性格を理解することが地理学の目標であるとしました。その際、空間的多様性と地域間結合に着目するアプローチと、特定の地域における地理的事象間の関係性に着目するアプローチがあることを指摘しました。

これを地図で例えるならば、特定の地理的事象を一枚ずつ異なる地図に表示し、それらを重ねて見ることで、横から見れば事象の空間分布が、上から見れば特定地域の諸事象間の関係性が理解できます。前者が系統地理学的な見方、後者が地誌学的な見方といえます。

ブライアン・ベリーは、地理行列を用いてこの違いを説明しました。地理行列の行が列よりも長い場合を系統地理学的な分析、列が行よりも長い場合を地誌学的な分析としました。

地域スケール

地誌学における研究対象の地域スケールは一定ではなく、大陸レベルから市町村、さらには一集落まで、多様な規模の地域が研究対象となります。

研究方法

地誌学の研究方法には、主に以下の三つがあります。

1. 静態地誌: 地域を構成する多くの要素を網羅的に記述する方法です。これにより、地域の構成要素を欠落なく記載できる一方で、羅列的になりやすいという短所があります。
2. 動態地誌: 特定の地域で特徴的な要素を取り上げ、それらと他の要素との関係性に着目して地域性を考察する方法です。静態地誌の欠点を補うために考案されました。
3. 比較地誌: 静態地誌や動態地誌を用いて複数の地域を比較し、共通点や相違点から地域性を解明する方法です。比較により、各地域の特性がより明確になります。

まとめ

地誌学は、特定の地域を総合的に理解するための重要な地理学の一分野です。その研究は、歴史的な変遷を経て、現在も新たな視点や方法論が模索されています。地誌学は、単なる地域記述にとどまらず、地域の構造や特性を理解するための体系的なアプローチを提供します。この学問は、私たちが住む世界をより深く理解するための鍵となるでしょう。

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