計量革命

計量革命とは

計量革命とは、地理学において、数理科学的・統計学的な手法を導入し、モデル作成や現象の説明を試みた一連の動きを指します。1950年代後半から1960年代前半にかけて欧米で発生し、特に1960年代のアメリカ地理学会に大きな影響を与え、その後世界中に広がりました。

背景

1950年代前半までの地理学は、個々の場所の記述に重点が置かれる傾向が強く、自然科学のような法則性を見出す学問とは見なされていませんでした。しかし、1950年代後半になると、フレッド・シェーファーのような研究者が、地理学を自然科学のように法則を確立する学問へと変革しようとしました。シェーファーは、地理学を「空間の科学」と捉え、論理実証主義を導入することを提唱しました。

その後、地域科学の成立、コンピュータ技術の進歩、空間分析手法の導入などが複合的に作用し、計量革命が起こりました。

アメリカ合衆国における動向

アメリカでは、1950年代末にワシントン大学で計量革命が始まり、その後、アイオワ大学、ノースウェスタン大学、ウィスコンシン大学、シカゴ大学へと広がりました。

ワシントン大学: ウィリアム・ギャリソンとその門下の大学院生たちが、経済学の理論や計量分析法を地理学に応用し、空間パターンの規則性や距離の効果を研究しました。ギャリソンは、グラフ理論、多変量解析、線形計画法などの分析手法を開発し、ネットワーク分析や圏域設定、交通インパクト研究などに適用しました。また、買い物行動の分析なども行われました。これらの研究は、空間分析や行動地理学の先駆けとなりました。

シカゴ大学: ベリーは、計量的な手法に基づく都市地理学・経済地理学を研究し、伝統的な地理学との親和性を高める研究も行いました。地理学的な標本抽出法や地理行列の考案なども行いました。

ノースウェスタン大学: ターフェと門下の大学院生たちが計量分析の研究を進めました。ギャリソンの着任後は、ワシントン大学出身者も加わり、計量地理学研究の拠点となりました。

ウィスコンシン大学: バンギがシェーファーの主張を引き継ぎ、空間理論の構築を地理学の目標としました。また、ロビンソンが地図パターンの相関分析を行いました。

* アイオワ大学: シェーファーが「空間の科学としての地理学」を主張し、ハーツホーンを批判しました。マッカーティは、相関分析や回帰分析を用いて空間的関連を分析し、空間スケールによってその関連性が異なることを指摘しました。

イギリスにおける動向

イギリスでは、アメリカで計量革命に触れたハゲットやチョーリーらが計量分析に関心を持ちました。また、応用研究の経験から計量分析の重要性を認識する研究者も存在しました。ハゲットらの書籍出版後、イギリス地理学界にモデル分析の重要性が浸透しました。

特に、ハゲットとチョーリーの出身校であるケンブリッジ大学や、ハゲットが勤務したブリストル大学を中心に、計量革命が広がりました。イギリスにおける計量革命は、自然地理学との関連が深く、理論化やモデル化を重視する点が特徴です。

スウェーデンにおける動向

スウェーデンでは、ルンド大学のヘーゲルストランドが、モンテカルロ法を用いたシミュレーションモデルを構築し、空間的拡散の研究を行いました。この研究は、アメリカの研究者にも影響を与えました。

計量革命の影響

計量革命によって、アメリカの地理学雑誌や博士論文において、計量的な手法を用いた論文が増加しました。この流れは、イギリスにも伝わり、欧米の地理学界全体に広がりました。日本における計量地理学の研究は、欧米に比べて10年以上遅れて本格化しました。

また、計量的な地理学は、地理教育にも大きな影響を与え、高等教育だけでなく、中等・初等教育における地理の授業にも波及しました。

問題点と批判

計量的なデータに偏重する傾向が強まり、データ収集や分析自体が目的化するという問題も生じました。また、人文[[地理学]]においては計量革命以降に普及した手法が、自然地理学ではそれ以前から用いられていたという側面もあります。

さらに、計量的な手法だけでは人間を十分に理解できないという批判も生まれ、現在では人文主義地理学など、個人の主観的な観念に着目する研究も主流となっています。


計量革命は、地理学をより科学的な学問へと発展させる上で重要な役割を果たしましたが、その反省を踏まえ、今日では多様な視点を取り入れた地理学研究が進められています。

もう一度検索