夜間中学

夜間中学とは

夜間中学とは、戦前の旧教育制度下において、夜間に中学校や中等学校程度の教育を実施していた教育機関の呼称です。現在の高等学校夜間部や定時制課程のルーツでもあります。

概要

夜間中学は、制度として規定された名称ではなく、夜間に開講していた教育機関が自ら「中学」と名乗っていたものを、教育史の研究において便宜的に用いられている呼称です。これらの学校は、中学校と同程度の教育を行うことを目的としていましたが、当時の制度上は正式な中学校とはみなされていませんでした。多くは私塾や各種学校の形態をとり、卒業しても特別な資格は得られませんでした。

設立の背景

夜間中学の設立背景には、経済的な理由で昼間の学校に通えない勤労青少年の学習機会を確保するという目的がありました。しかし、実際には学校経営上の都合も大きく影響していました。例えば、生徒数の増加に対応するため、夜間授業を実施し、昼間は別の仕事を持つ外部講師を招くといった運営方法が採られていました。

1900年代から1910年代にかけて、都市部では中学校への入学が難しくなり、中学校側や校長からも二部授業や夜間授業の実施を求める声が高まりました。当初、文部省は青年層の夜間教育を認可しませんでしたが、1921年に中学校令施行規則が改正され、勤労主義に基づいた教育が可能になりました。これにより、夜間実業学校の設置が認められ、各県でも主要都市を中心に夜間中学を設置する動きが広がりました。

関東大震災後の展開

1923年の関東大震災以降、被害を免れた私立学校や東京府立の中学校が相次いで夜間中学の経営に乗り出しました。また、衆議院でも正式な中学校としての認可を求める議論がなされました。しかし、文部省は正式な中学校としての認可には慎重な姿勢を崩しませんでした。一方で、罹災者救済事業として、東京高等師範学校同窓会が「茗渓中学」を設置するなど、例外的な措置もみられました。

専門学校入学者検定制度と夜間中学

1926年に青年訓練所が発足すると、夜間中学の一部は青年訓練所の施設課程として指定を受けたり、青年訓練所として新設されるようになりました。1932年には、一部の優良な夜間中学に専門学校入学者検定（専検）の指定が与えられるようになりました。この指定を受けた学校は、正規の中学校とほぼ同等の社会的評価を得ることになりました。

専検は、後の大学入学資格検定（大検）の前身にあたる制度で、文部大臣が指定した学校の卒業者は無試験で専門学校への入学資格を得ることができました。これにより、夜間中学の中にも、正規の中学校と同等の資格を得られる学校が現れるようになりました。しかし、専検指定を受けずに、各種学校として運営を続ける夜間中学も多く存在しました。

兵役と夜間中学

夜間中学の卒業者の兵役については、文部省と陸軍省が協議し、専検指定を受けた学校の卒業者には徴集延期が認められました。

青年学校への移行と夜間中学の終焉

1935年に青年訓練所が青年学校に移行し、1939年には青年学校への就学が義務化されました。これにより、専検指定や青年学校の認定を受けずに夜間中学を運営することは困難になりました。

1943年には、中学校令が改正され、中学校に夜間授業課程を設置することが可能になり、夜間中学は正規の中学校へと移行していきました。この結果、専検指定や青年学校認定を受けずに運営を続ける夜間中学はごくわずかとなりました。また、企業内に設置されていた中等教育機関も、多くが青年学校へと移行しましたが、一部は夜間中学として存続しました。

戦後の夜間中学

終戦後、中学校令が改正され、中学校夜間授業課程の修業年限は4年となりました。1946年には、修業年限4年の夜間課程の中学校3年を修了した者は、高等学校高等科への入学が認められました。そして、学制改革により、中学校夜間授業課程は新制高等学校の夜間課程（後の定時制課程）へと移行し、夜間中学はその歴史に幕を閉じました。

脚注

参考文献

三上敦史『近代日本の夜間中学』北海道大学図書刊行会、2005年。
三上敦史「1920−30年代における夜間中学の展開」『日本の教育史学』第44巻、2001年