失調

失調（Ataxia）とは

医学用語としての「失調」は、ある機能が正常に調節できなくなる状態を指します。運動機能、自律神経機能など様々な機能に対して用いられ、英語やラテン語で異なる訳語が存在します。この記事では、特に「運動失調」に焦点を当て、その原因、種類、症状、診断について詳しく解説します。

運動失調について

運動失調（ataxia）は、語源的には「動作の障害」を意味し、四肢や体幹の動作の調節障害を指します。運動を行うためには、多くの筋肉が協調して働く必要がありますが、この協調がうまくいかない状態が運動失調です。個々の筋肉の力は正常であるにもかかわらず、運動が円滑に行えなくなります。

運動失調は、小脳、大脳、脊髄、前庭神経などの障害によって引き起こされます。原因部位によって、小脳性失調、大脳性失調、脊髄性失調、前庭性失調などに分類されます。

運動失調の原因

運動失調は、全身性疾患または神経疾患によって起こりえます。

全身性疾患: 過労、ビタミン欠乏、起立性低血圧など
神経疾患: 小脳障害、前庭障害、脊髄後索障害、末梢神経障害など

運動失調の種類

運動失調は、障害部位によって以下のように分類されます。

1. 大脳性運動失調症: 大脳皮質、特に前頭葉の障害によって起こります。脳血管障害、脳萎縮、外傷、腫瘍などが原因となります。失調性歩行や精神機能の低下が見られます。
2. 小脳性運動失調症: 小脳の障害によって起こります。小脳腫瘍、血管性障害、変性疾患などが原因となります。筋力のコントロールがうまくいかず、敏速な反復運動や運動の抑制が困難になります。体幹失調、四肢の筋緊張異常、協調運動不能、企図振戦などが認められます。
3. 前庭性運動失調症: 前庭神経の障害によって起こります。メニエール病、突発性難聴、薬物中毒、外傷などが原因となります。平衡機能障害、めまい、眼振などが認められます。
4. 脊髄性運動失調症: 脊髄後索の障害によって起こります。脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症などが原因となります。深部感覚や平衡感覚が損なわれ、ロンベルグ徴候が陽性となります。

運動失調の症状

運動失調の症状は、原因部位によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。

歩行障害: 蹣跚（まんさん）歩行、よろけ歩行、千鳥足など、歩行が不安定になる。
協調運動障害: 手足の動きがぎこちなくなる、スムーズな運動ができない。
構音障害: 発音が不明瞭になる、呂律が回らない。
眼振: 眼球が不規則に動く。
* 平衡機能障害: ふらつき、めまい。

運動失調の診断

運動失調の診断には、神経学的検査や画像検査が行われます。

1. 神経学的検査: ロンベルグ徴候、指鼻試験、膝踵試験などを行い、運動失調の有無や程度を評価します。
2. 画像検査: MRIやCTスキャンで脳や脊髄の状態を確認し、原因となる病変を特定します。

歩行障害について

失調性歩行では、両足を広く離し、歩幅が一定せず、体幹がふらつきます。閉眼するとよろけが強くなるのが特徴です。アルコールは小脳を一過性に障害するため、酩酊状態では同様の歩行が見られます。

統合失調症との違い

統合失調症（schizophrenia）は、脳の機能障害によって、幻覚、妄想、思考の混乱などが生じる精神疾患であり、運動失調とは全く異なる病気です。

まとめ

運動失調は、様々な原因によって引き起こされる運動機能の障害です。原因を特定し、適切な治療を行うことが重要です。歩行障害や協調運動障害などの症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

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